ラシク・インタビューvol.193

放課後NPOアフタースクール 事務局 栗林真由美さん

主に小学1~3年の児童を預かる放課後児童クラブ(学童保育、以下学童)の存在感が高まっています。厚生労働省によると、2020年の登録児童数は約131万人。共働き家庭が増え、学童の利用者も10年前から6割増加しています。

新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年は学童にとっても激動の一年に。春に学校が一斉休校になると、厚労省は学童に対して「原則開所」を要請。通常、学童は午後から開所しますが、厚労省の調べでは、午前中から開所した学童は全体の半数以上に達したとか…!

LAXICには2度目の登場となる栗林 真由美さんは、娘さんの小学校入学と同時にコロナによる休校を経験したひとり。栗林さんが勤める、放課後NPOアフタースクールは、『放課後はゴールデンタイム』をコンセプトに、子どもたちに安全で豊かな放課後を届けるべく活動しています。

子どもの居場所として「なくてはならない存在」となっ学童。 コロナ禍で栗林さん自身が感じたこと踏まえ、子どもたちにとっての理想の放課後やこれからの社会での学童のあり方についてお聞きしました。

利用希望者数に対してまだまだ選択肢が少ない学童環境

学童の地域格差、選択肢の少なさに揺れる親心。子ども主体で考える「理想の放課後のあり方」とは?
(画像=栗林 真由美さん/オンラインで取材を行いました、『LAXIC』より引用)

編集部:栗林さんは現在、御法人でどのようなお仕事をされていますか?

栗林真由美さん(以下、敬称略。栗林):私は団体内のICT全般を担当しています。組織全体の骨組みをICTを活用しながら整える仕事や、テクノロジーを使って子どもの遊びの中にICTを取り入れるための支援をしたりするのが仕事です。

編集部:子どもたちが活用するICTというと…?

栗林:タブレットを使って自分たちで動画を作ったり、最近だとプログラミングなどですね。プログラミングは2020年から小学校で必修化されたので子どもはもちろん、保護者の関心も高まっています。

LAXIC編集長小山(以下、小山):私の息子もこの春から小学生になったので、去年はいろいろな学童を見学しました。まさにプログラミングに力を入れている学童もあり、驚きましたね。とはいえ、全ての学童が具体的なプログラムを持っているわけではないですし、そもそも習いごと的な要素を持つ学童のほうが少ないのでは?

栗林:おっしゃる通り、一口に学童といってもさまざまですよね。私たちの団体の場合は、「放課後はゴールデンタイム」というビジョンを置き、さまざまな活動を進めています。自分が「楽しい!」と思えるものを追求できる環境を大切にしているので、多様な選択肢の中から選べるようにという意味で、プログラミングやICTというツールも様々な遊びの中の一つとして取り入れています。

編集部:栗林さんのお子さんも昨年小学校に入学されたんですよね? どのような学童に通われていますか?

栗林:娘は地域の公設学童に通っています。人見知りタイプなので、同じ小学校のお友だちがたくさんいたほうが安心だろうと思いました。

編集部:公設学童というと、一斉休校の際に、部屋の広さに対して子どもの人数が多すぎることなどが話題になっていたと思います。娘さんの学童はいかがでしたか?

栗林:公設学童には「放課後子ども教室」と、「放課後児童クラブ」の2種類※あります。放課後子ども教室で学校と一体化されている場合は、全校生徒が対象なので規模が大きくなる傾向があります。

娘が通っているのは放課後児童クラブのほうなのですが、こちらは一人あたりの面積が決まっている関係で、少なすぎず多すぎず…といった規模です。学校のすぐ近くにあるので、外遊びでは校庭も使っています。

小山:校庭が使えるのはいいですよね!民間の学童は習い事プログラムが充実していたり、駅前立地など保護者にとって魅力的な部分も多いですが、外でのびのび遊べる環境はあまりないのかも…と実際に学童見学をしていて感じました。

栗林:校庭は意外と使えないところも多いと聞きます。子どものタイプややりたい遊びはみんな違うので、さまざまなバリエーションの中から自由に選べるのが本来理想的なのでしょうね。

編集部:学童の利用者数が増える一方で、それらを自由に選べるかという意味では案外選択肢が少ないのかもしれないですね。

※「放課後子ども教室」は文部科学省管轄で、親の就労の有無にかかわらず誰でも利用できる。「放課後児童クラブ」は厚生労働省管轄で、基本的に働く親をもつ子どもだけが利用できる。放課後を過ごす場所としては、ほかに民営の放課後教室などがある。

課題は、自治体・学校・学童のスムーズな連携

学童の地域格差、選択肢の少なさに揺れる親心。子ども主体で考える「理想の放課後のあり方」とは?
(画像=『LAXIC』より引用)

編集部:昨年の一斉休校時は、学童のニーズがぐっと高まりましたよね。

栗林:一斉休校では自治体によって対応が分かれました。学校は一切関与せずに、まるまる学童保育に「子どもの居場所を運営してください」という自治体もあれば、「午前中は学校で、午後は学童で」という連携型の自治体もありました。

後者であれば、うまく協力しながら分散して活動を続けられていたと思いますが、そうでないところは負担がが全て学童のほうにきてしまうので大変です。地域によっては、限られた部屋の中で一日中過ごさなければならないという状況もあったと思います。

編集部:自治体によって対応が異なるというのは、保護者としてはモヤっとします…。

栗林:学童保育は、活動や運営の面では学校と異なる切り分けはされていても、「一人の子どもが放課後を過ごす場所」という意味では地域との連携が大事ですね。そこがつながればつながるほど子どもの居場所が豊かになるのだろうなと、コロナ禍ですごく感じました。

小山:コロナ禍とはいえ、本来格差があってはいけない場所で格差が生じてしまうのはモヤっとしますね…。ちなみに御法人では、各自治体へアフタースクール開設のアプローチもされていると思いますが、その際に受け入れられるかどうかは、自治体と学校・学童の連携の有無が大きいですか?

栗林:大きいですね。たとえば、市長さんや自治体の長に「教育全体を良くしたい」というビジョンがあり、自治体と学校との連携がミッションとして発信されていれば、そうではないところと比べて進めやすい傾向にありますが、「学校を知らない人たちに使われる」ということ自体にそもそも先生方が不安を感じられる、といったこともよくあります。自治体の担当者さんからは、学校との連携や活用についてのご相談もよくいただきます。

編集部:自治体から御法人に相談があるのですか?

栗林:放課後NPOが運営している「アフタースクール」は、移動の必要がない学校の中で多様な地域の“市民先生”などの力を借りて放課後の活動を充実させていく、というモデルです。すべての直営のアフタースクールが学校内で運営しているため、学校活用のノウハウやプロセスについてご相談いただくことがあります。