ラシク・インタビューvol.194

モノグサ株式会社 代表取締役CEO 竹内孝太朗さん

インターネットなどの情報通信技術を活用したICT教育が普及しつつある昨今。最新テクノロジーを子どもの勉強にどう取り入れ役立てるのか、関心のある方は多いと思いますし、デバイスやアプリの取り扱い方について悩む方も少なくないと思います。

今回、LAXIC編集部では、解いて憶える記憶アプリ『Monoxer(モノグサ)』を開発・運営するモノグサ株式会社の代表取締役CEO竹内孝太朗さんを取材しました。国内トップクラスの導入実績を誇るアプリに成長させた背景には、竹内さんが前職リクルートで立ち上げに携わった「スタディサプリ」事業で経験したジレンマも…。 AI時代の成績UPにつながる学び方とデジタルデバイス活用法についてお伺いしました。

・トライ&エラーを繰り返すなかで見つけたAI学習の有効的な活用法
・テクノロジーには頼れない学習プロセスの落とし穴
・AI時代の学び方
・3児のパパ竹内さんが実践する家庭内EdTech

※本企画は前後編に渡ってお送りします。

子どもにスマホは危険? デジタル学習は目に悪い?ICTツール活用の大前提

AI時代、デジタルデバイスをどう活用する?成績UPのヒントは“記憶”にあり!【前編】
(画像=Monoxer(モノグサ)は解いて憶える記憶アプリです、『LAXIC』より引用)

編集部:昨今、タブレットが家庭はもちろん教育現場にもすごいスピードで浸透してきていますよね。親世代としてはデジタルツールに対して悪影響を心配したり、不安を感じたりする面があるかと思います。竹内さんはデジタル学習のデメリットについてどうお考えですか?

竹内孝太朗さん(以下、敬称略。竹内):「子どものスマートフォン利用は危ない」という情報は保護者の間ではよく聞かれる話ですよね。第一前提として、インターネットに無制限アクセスできる状態が子どもにとっていいわけがありません。これはICTツール全般に言えることだと思います。

編集部:このあたりは親がきちんと管理する必要がありますよね。

竹内:そうですね! あとは「デジタルツールを多用することによって子どもの視力が低下するのでは?」という保護者の不安もよく聞きます。アナログであろうがデジタルであろうが、近くにあるものを長時間見続けていれば視力は下がりやすくなります。むしろデバイスの問題というよりは、親がわが子に勉強をどれくらいさせるかという問題になります。

編集部:2年ほど前に「中学生の9割が近視」というニュースが話題になりましたが、子どもの視力低下の原因は “外遊び回数の減少” と発表されていました。一概に読書やスマホが目に悪影響とはいえないようですが、いずれにしても長時間学習の弊害を親がどう捉えるかですね。

竹内:まさにそうですね。この2点はICTツールを活用するうえでの大前提となるポイントです。

「分かる」という体験は生身の人間でしか叶えられない

AI時代、デジタルデバイスをどう活用する?成績UPのヒントは“記憶”にあり!【前編】
(画像=竹内CEO/オンラインで取材、『LAXIC』より引用)

竹内:デジタル学習のデメリットを語るうえでさらに重要になってくるのが、「ICTツールには限界がある」という事実です。

編集部:限界…というのは?

竹内:そもそもAI学習は万能というわけではなく、苦手なこともあります。その苦手部分をあらかじめ知っておくことはICTツールをうまく活用することにつながっていきます。

編集部:確かに! ではその苦手な部分をぜひ教えてください!

竹内:お子さんの成績を上げたいと考えている保護者でICTを使う・使わないかを考えていらっしゃるような時に、私は「理解」・「定着」・「活用」という3つの学習プロセスでお伝えしています。

「理解」とはいわゆる「分かる」という体験を指します。たとえば、分数というものが何なのかであったり、分数の必要な手順であったり、そういうものを「理解」として位置づけています。しかし、いくら理解ができても、テストで点数を取るには問題を解くスピードを上げていく必要がありますよね。

そのため、理解したものを早く引き出すための「定着」のプロセスが必要になります。問題を理解し、その理解を即座に引き出すことができれば、おおよそ知っている問題は解けるようになります。そして最後は自分の知っている知識を使って問題を解いていく…これが「活用」のフェーズです。

編集部:「活用」は応用問題などで必要となってくるスキルでしょうか?

竹内:はい、まさにそうですね。たとえば「お兄ちゃんとケーキを半分こしました。その後お姉ちゃんからさらに『半分欲しい』と言われました。あなたはどれだけケーキを食べられますか?」という文章題があったとします。半分の半分だから「1/2×1/2=1/4」と計算できるのですが、文章題の場合は「分数を使いなさい」という指示はありません。そのため「分数を使うといいかもしれない」と思わなければいけないのです。

編集部:確かにそうですね。

竹内:このように自分の知っている知識を動員するかどうかの意思決定が委ねられている問題、思考力を問う問題が出てきた場合には、活用のスキルが必要になってきます。

ちなみにこの3つの学習プロセスの「理解」の領域についてはいまだに生身の人間が教えるのが最も有効的なのです。

編集部:それはなぜですか?

竹内:実は「分かる」ための体験には“例え話”が必須だからです。ここでいう例え話とは、「その子が知っているものごと」に置き換えて同じ構造を説明してあげることを指します。

たとえば、分数を教える場合、ケーキ屋さんの例え話をされる親御さんは多いですよね。その子に合わせた例え話をしてあげることが、ものごとの「理解」を促すためにはとても重要なのです。しかし、今のAI技術ではまだ例え話ができないのが現状です。AIはその子が何について知っていて、知らないかが分からないため、その子に合わせた例え話ができないのです。

編集部:なるほど! 確かに例え話は個人差もありますし、人間でなければ難しそうです。

竹内:さらにもう一点、AIは曖昧さを許さない特徴があります。ケーキを使って分数を教える場合も、「絞ったクリームの大きさがそれぞれ違うのは均等とはいえない」というように厳密さにこだわり、例え話の中の適当さを許容しません。人間はそういった曖昧さを許せて理解できる特徴があるんですよね。

AIはこの先当面、人間と同じ水準で例え話できるようにはならないため、「理解」は生身の人間を通して指導してもらった方がクオリティが高いのです。