万葉集に出てくる恋愛の歌をご紹介!

万葉集は7世紀~8世紀のころ、時として飛鳥時代~奈良・平安時代にかけて作られたと考えられている日本最古の和歌集です。全20巻に編纂され、およそ4,500首もの短歌が収録されています。

農民から天皇まで詠み人は数知れず。全国各地に作者がいることでも知られています。万葉集は、恋愛を描いた和歌が多いことをご存じですか?原文を読み下すと情熱的な歌も多いのです。

ここでは恋愛を描いた有名な万葉集について、意味と解説を交えお届けします。

万葉集に出てくる恋愛の歌《有名》

万葉集の恋愛の歌まとめ。両思いから片思いまで心に響く切ない和歌をご紹介
(画像=pixabay.com Folkより引用)

万葉集の多くは、求愛の気持ちを詠んだものや、愛する人を思って詠んだ歌が大半です。

今の時代でも恋愛面で共感できる和歌が多い特徴もあります。ここでは万葉集でも数多くのメディアなどで取り上げられることが多い、有名な和歌をピックアップしてお届けします。

千年以上のはるか昔に生きていた人も、私たちの恋愛事情に近いポップで鮮やかな感情を持っていることに驚かれることでしょう。また、現代語に訳した意味を噛みしめ、季節やその時の情景を思い浮かべながら、平安文化に思いをはせてみましょう。

柿本人麻呂の万葉集和歌(1)

石見のや高角山の木の間よりわが振る袖を妹みつらむか

意味:石見国にある高角山に生えている木の間から、私が心を込めて振る袖をあの人(彼女)は見ただろうか

実は、この歌は柿本人麻呂の妻が亡くなったときに詠まれた有名な歌です。

「振る袖」とは「魂振り(たまふり)」という行為で、旅の安寧を祈るために自宅で待つ妻の魂を呼び寄せる行為とされていますが、この場合は人麻呂が妻の御霊を見送るために、袖を振ったととらえることができます。それと同時に、亡き妻への愛が伝わってきます。

柿本人麻呂の万葉集和歌(2)

古にありけむ人も吾がごとか妹に恋ひつつ寝かてにけむ

意味:私と同じように昔の人も恋い焦がれる人を思って、夜を寝付けなかったのでしょうね。

男性は女性のもとに「夜這い」をして愛を伝える文化があったので、何らかの理由で意中の人のもとへ出向けない夜は、会いたい気持ちが勝り、寝付けなかったのではないでしょうか。

昔の人もこんな気持ちだったのかな、と無理やり思考をそらして時間を過ごそうとしていたのかもしれません。万葉集の昔も今も、相手を思って眠れない気持ちは普遍的です。

詠み人知らずの万葉集和歌

さつきまつ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする

意味:五月に漂う橘の花の香りに、昔の恋人の衣の香りを強く思い出すの

「香りで過去を思い出す」というのは、いつの時代にも使われる有名なフレーズです。昔の男女は衣服にお香の匂いを移し、おしゃれの役割を果たしていました。余談ですが、お香の煙で衣服の虫よけ効果も見出していたようです。

橘(かんきつ類)の花のさわやかな香りと、かつての思い人が結びつけて思い出すという切ない内容です。こちらもわかりやすくて情景を思い浮かべやすい歌ですね。

万葉集に出てくる恋愛の歌《両思い》

万葉集の恋愛の歌まとめ。両思いから片思いまで心に響く切ない和歌をご紹介
(画像=pixabay.com Folkより引用)

いつの時代でもそうですが、思い人と気持ちが通じ合ったときには、舞い上がるほどうれしい気持ちになります。

また、会いたいときに恋人と会えない時には切ない気持ちになるでしょう。万葉集の和歌ではそんな気持ちも、赤裸々に詠まれています。ここでは、両思いになった人が詠んだ和歌をピックアップしました。

大好きな気持ちをストレートに表現しているものが多く、意味を知るほど万葉集和歌の奥深さがわかります。大切な人を思って詠まれた歌をぜひ噛みしめてみましょう。

内大臣藤原の万葉集和歌

吾はもや安見児得たり皆人の得かてにすとふ安見児得たり

意味:俺はついに安見児を我が物にしたよ!誰もが手に入れることができなかった、安見児を手に入れることができたんだ!

安見児(やすみこ)さんは、偉い人に使える侍女の役割だったのだとか。そのため簡単に結婚することができない、高嶺の花のような存在だったのではないでしょうか。

結婚のお許しをもらえた内大臣藤原が、うれしくてうれしくて喜びを隠せない様子をうたっています。「安見児得たり」が二回繰り返されていることで、両思いを超えるうれしい気持ちが伝わりますね。

藤原義孝の万葉集和歌

君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな

意味:あなたのためだったら、命は惜しくないと思っていた。けど、今となってはあなたと一日でも長く、いつまでも一緒にいたいと思うようになったのです。

片思いだった頃は意中の相手の気を引くために、「あなたのためなら死ねる!」と思っていたけど、両思いとなった今では「あなたと離れたくない(死にたくない)」という、男性のストレートな気持ちが万葉集で詠まれています。

今の時代でもまっすぐに響く恋の歌です。現世でもこんなこと言われたら、うれしいという気持ちを超えてしまうかもしれませんね。

平兼盛の万葉集和歌

忍れど色にでにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで

意味:隠しているつもりなのだが、顔に出てしまう。人に「恋をしているのですか?」と悟られ、聞かれるほどに。

両思いで心が通じ合った後は、どことなく夢見がちで浮足立ってしまうものです。要職についていた兼盛は、仕事中だからこそ気を引き締めているつもりなのに、意味もなく顔が緩んでしまうというさまを思い浮かべることができます。

そのにやけた顔を見た同僚から「彼女でもできた?」と聞かれて、恥ずかしく思えてしまうというところまでが描かれています。女性のもとに返し歌でこの歌が届いたら、うれしくなるかもしれません。