退職金の受け取り方には、一度に全額受け取る「一時金形式」と、ある期間に分割して受け取る「年金形式」がありますが、どちらで受け取るのがよいのでしょうか。今回は受け取り方による税金の違いと、税金面以外のメリット・デメリットをご紹介します。

退職金を一時金で受け取る場合

(写真=PIXTA)

退職金は一時金で受け取ると「退職所得」の扱いになります。退職所得は他の所得と合算せずに分けて計算を行う「分離課税」です。長年の勤労に対する報奨金の側面もあり、税負担が軽くなるよう配慮されています。この退職所得は次のように計算されます。

<退職所得の計算>
(収入金額(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額

表1.退職所得控除額の計算の表

勤続年数(=A) 退職所得控除額
20年以下 40万円×A
(80万円に満たない場合は80万円)
20年超 800万円+70万円×(A-20年)

大学卒業後23歳で就職し、その後60歳で定年退職した人が、退職金として2,000万円もらった場合の退職所得の金額を計算してみましょう。この人の勤続年数は37年なので、退職所得控除額は1,990万円です。退職所得の金額は2,000万円から退職所得控除額を引いた額の2分の1なので、この場合の退職所得は5万円になります。

退職金を年金形式で受け取る場合

(写真=PIXTA)

課税の仕組み

退職金を分割で年金として受け取ると「雑所得」の扱いになります。この場合、年金の収入金額に対して「公的年金等控除額」が適用され、公的年金等と合算されて計算されます。

表2.公的年金等に係る雑所得の速算表

公的年金等の収入金額 公的年金等にかかる雑所得の金額
65歳未満 60万円以下 0円
60万円超130万円未満 収入金額-60万円
130万円以上410万円未満 収入金額×0.75-27万5,000円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85-68万5,000円
770万円以上1,000万円未満 収入金額×0.95-145万5,000円
1,000万円以上 収入金額-195万5,000円
65歳以上 110万円以下 0円
110万円超330万円未満 収入金額-110万円
330万円以上410万円未満 収入金額×0.75-27万5,000円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85-68万5,000円
770万円以上1,000万円未満 収入金額×0.95-145万5,000円
1,000万円以上 収入金額-195万5,000円

例えば、退職金2,000万円を10年間に分割し、年間で210万円(10年の運用によって増える分を考慮)ずつ受け取る場合を考えてみると、65歳まで他の収入がなければ、雑所得は130万円となります。さらに、65歳からもらえる公的年金が加わることで雑所得は増えます。

税金の額は所得によって決まります。雑所得は基礎控除など他の所得控除が受けられますが、それを差し引いても一時金で受け取ると退職所得は5万円なので、ずいぶん差があることがわかるのではないでしょうか。

国民健康保険にも影響する

退職後に国民健康保険に加入する場合は、国民健康保険料を支払う必要があり、この保険料は上記の雑所得や公的年金の額に応じて決まります。しかし、退職所得は保険料の計算で対象となる前年度の所得からも対象外となっており、社会保険料の面でも優遇されています。