センスは単価を下げさせない
次に、ウェブサイト制作には技術以上の「センス」が問題となる。
私はかつて、豊富なテンプレートを持つウェブサイト制作ツールがあれば、誰でもセンスに溢れたサイトが作れると思っていた。
しかし、そうはいかない。
- フォントを同じサイトなら統一すべし。
- フォントサイズを画面一杯にせず少し小さくすると上品になる。
- 色は使っても3色まで
といった、デザインの基本を押さえなければ、ウェブサイトのデザインは簡単に崩壊する。
テンプレートがいかにセンスあふれるものでも、そこへ全く異なるトーンの写真を1枚入れれば、ウェブサイトはダサく、素人っぽくなってしまうのだ。
センスはデザインを学んだ人間へ金を出さないと買えない。それが、ウェブサイト制作の単価をあるていど維持できているポイントになっている。
そして生まれた時給3万円のアルバイト
……ということに気づいてから、私は多数のソフトに触り始めた。2000年当時のホームページ・ビルダーに比べて、いずれも使いやすく、機能が増していた。
初心者にも触りやすく、誰でもマスターできるものに変わっていた。だから怠惰な私は喜んで使った。ごめんね、HTML5。あなたをマスターする前に、こっちを選んでしまった。
そして、別途デザインの基礎を学んだ。といっても、美大に通うような話ではなく、最初はスライド資料作成の知識を応用した。コンサルタントが新卒で学ぶスライド資料の作り方には、論理構成だけでなくデザインの要素も大いに入っている。それを学ばせてもらった。
あとは、デザインの教科書を数冊読み込んだくらいだ。合計学習時間は50時間を切ると思う。だが、これが「誰にでもできる」はずのウェブサイト制作を、時給3万円のアルバイトに変えてくれた。
相手の要望をヒアリングし、適したテンプレートを選ぶ。テンプレートを破壊しないフォントと色味の写真を選ぶ。ときには撮影から外注のフォトグラファーさんと入る。そして当て込み、完成させる。
イノベーティブな人材からは「単純労働」と笑われるだろうこんな仕事が、私を救ってくれた。というのも、私は昨年から休職中だったからだ。
誰にでもできることだって、自分のキャリアを救ってくれる
プライベートがごたついて、どうしても文章が書けなくなった。ライターとして致命傷を負ったが、それでも食べていかねばならない。そう考えたとき、久しぶりにウェブサイト制作の依頼をツテでいただいた。
8時間でサイトを作って納品すると(テンプレートに沿って6ページほどの単純な静的サイトを作っただけ)、感動して他の案件をいただけた。これで24万円。月に2つも作れば、経費を賄うことができた。
そうして、私は今日まで生きている。きっと誰にでもできる仕事で、誰にでもできる量の勉強だけをもとに。でも、それが仕事の大半なのかもしれないし、それでいいのだと思っている。
世間では、オンリーワンのスキルがもてはやされがちだ。アーティスティックで、その人にしか作れないものがあれば私もうれしい。けれど本当は私の原稿だってAIがいつか書けるようになるだろう。オンリーワンで食べていけるひとなんて、ほとんどいない。
だから、きっと単価がそこまで下がる仕事も、少ないのではないか。そして今、単価が低い仕事は「誰にでもできるから単価が安い」のではなく、軽んじられているだけなのではないだろうか。保育士さんや、ゴミ収集、介護士のみなさまの立派な姿を拝見しながら、最近はそんなことを考えている。
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