社会人が就職してから定年などで退職するまでのあいだに、手にする賃金の総額を「生涯年収(生涯賃金)」と呼ばれます。統計調査によるデータから、生涯年収は性別や働き方で違いがあることも明らかになっています。現代の日本人が生涯をかけて稼げるお金は、平均でいくらになるのでしょうか?まとめてみました。

生涯年収は、どうやって計算される?

労働者の生涯年収については、さまざまな統計調査のデータをもとに推計が行われています。その中でも代表的なものは、厚生労働省が行っている「賃金構造基本統計調査」を資料とするものです。

この調査は主要産業で働く人たちの属性や賃金の実態を明らかにするため、毎年6月(一部は前年1年間)の支払われた賃金の状況をリサーチするものです。

過去に労働者が実際に受け取ってきた給与の総額ではない

生涯年収という言葉のイメージから、これまで長年働いてきた人たちが実際に手にした給与総額だと思う人もいるでしょう。しかしそうではなく、現在の各年齢の賃金を合計して求めたものを生涯年収としているケースがあります(この記事で取り上げる生涯年収もこの方法で計算)。

そのため、推計された生涯年収は、誰もが受け取れるものと保証されているわけではありません。その一方で、世の中全体における賃金の水準が上がってきた際は、将来的に生涯年収の推計額も上昇する可能性があります。

これまでの生涯年収は終身雇用を前提とした金額

これまで長いこと日本の企業では終身雇用を前提とした労働慣行がありました。しかし近年、そうした終身雇用制度を採用していない企業もあります。また、非正規労働者が増加しているのも最近の傾向です。

生涯年収の推計についても、時代とともに終身雇用制度だけを前提としたものから、非正規労働者の賃金も加味した推計も行われるようになっています。

生涯年収は性別や学歴、働き方などで金額に差がある

生涯年収は職業生涯の在り方で金額に大きな差が出ます。転職をする、非正規雇用で働いているなど、働き方に大きく影響されるほか、学歴によっても金額が異なるものです。

また、ライフステージに合わせて働き方を変える女性も多く、男女での賃金差があることなどから、男性より女性の方が生涯年収の金額は低い傾向にあります。

生涯年収は学歴によって大きな差がある

前出の「賃金構造基本統計調査」をもとに独立行政法人労働政策研究・研修機構が発行している『ユースフル労働統計2019年』によると、学校を卒業した後、60歳までフルタイムで働いた場合の生涯年収を学歴別・男女別に見ると、次の通りになっています。 出典:労働政策研究・研修機構『ユースフル労働統計2019』

男性の生涯年収(退職金を含めない)

・中学卒2億円
・高校卒2億1,000万円
・高専・短大卒2億2,000万円
・大学・大学院卒2億7,000万円

女性の生涯年収(退職金を含めない)

・中学卒1億4,000万円
・高校卒1億5,000万円
・高専・短大卒1億8,000万円
・大学・大学院卒2億2,000万円

これらの金額は男女ともに企業規模に関係なく、大企業も中小企業も含めた計算結果です。全ての企業で退職金制度を利用できるとは限らないため、退職金を除いた額になっています。企業ごとに異なる福利厚生のシステムを排除した生涯年収という意味では、これらの金額が平均とも言えるでしょう。

社会に出る年齢が若いほど定年までの就業年数は長くなりますが、大卒など就学した年数が長い人のほうが生涯年収は多くなっています。学歴によって基本給が異なる給与体系の企業も多いため、トータルでは学歴の高い人の方が生涯年収は多くなる傾向にあります。

「男女の賃金差」は生涯年収にどれくらい影響がある?

男女の賃金差は社会問題としてたびたび取り上げられるテーマです。依然として男性より女性が得られる生涯年収は低い傾向にあるのが現状です。男女の学歴別の生涯年収を比較すると、次のように男性の生涯年収が高くなっています。

生涯年収の男女差

・中学卒6,000万円
・高校卒6,000万円
・高専・短大卒4,000万円
・大学・大学院卒5,000万円

男女雇用機会均等法の施行など、男女間の所得や仕事内容、昇進に関する開きを解消する動きは少しずつ広がってきました。しかし、現時点では女性と比べて男性の生涯年収が高く、男女のギャップが解消されたとは言えない状況が続いています。

正社員と非正社員ではどれくらい生涯年収に差がある?

昇給やボーナスなどがある程度保証されている正社員と、非正社員との間にも生涯年収の隔りが存在しています。学校を卒業した後、非正社員としてフルタイムで60歳まで働き続けた場合の生涯年収は次の通りです。

男性の非正社員(フルタイム)の生涯年収

・中学卒1億4,000万円
・高校卒1億3,000万円
・高専・短大卒1億3,000万円
・大学・大学院卒1億6,000万円

女性の非正社員(フルタイム)の生涯年収

・中学卒1億1,000万円
・高校卒1億円
・高専・短大卒1億1,000万円
・大学・大学院卒1億2,000万円

非正社員の間でも学歴による差や男女差が見られますが、正社員と非正社員の生涯年収を比べると、それぞれ次のように正社員の生涯年収が高くなっています。

男性の正社員と非正社員の生涯年収の差

・中学卒6,000万円
・高校卒8,000万円
・高専・短大卒9,000万円
・大学・大学院卒1億1,000万円

女性の正社員と非正社員の生涯年収の差

・中学卒3,000万円
・高校卒5,000万円
・高専・短大卒7,000万円
・大学・大学院卒1億円

正社員として働き続ける男女の間で生涯年収の開きが4,000万円から6,000万円だったのに比べると、雇用形態による生涯年収の差はさらに大きくなっており、雇用形態が大きく影響していることがうかがえます。こうしたギャップは大きな社会問題となっているため、解消に向けて同一労働・同一賃金の推進が求められています。

しかし、現時点では格差解消には至っておらず、働き方の多様化が進むこれからの社会が解決すべき課題とも言えるでしょう。