「過労死(Karoshi)」という単語が存在する日本

一連にわたる報道に欧米諸国が衝撃をうけた理由のひとつに、「過労死(Karoshi)」という単語の存在がある。英語圏では一般的に「過剰労働が原因の死(death from overwork)」という表現が用いられるが、過労死そのものを表す単語はない。

筆者が調べたかぎり、日本に並ぶ長時間労働が定着している韓国では、「クァロサ」という日本語の過労死にあたる単語が用いられているようだ。だからといって日本と韓国以外の国で、過労死がまったく起こっていないわけではない。

電子機器受託生産では世界最大級の規模を誇る中国のフォックスコン・テクノロジー・グループでは、2010年の1年間に25歳以下の若い工場員18人が過労自殺を試みている。幸い一命をとりとめた女性工場員は、毎朝マネージャーに調子を聞かれるたびに「いいです!すごくいいです!絶好調です!」と強制的に返答させられた後、「私語ひとつ許されていない静寂の中で、最高12時間にもわたる長時間労働を週6日間続けるのが苦痛だった」とその心境を語ったという。フォックスコンは事件直後自社の関連性を否定する一方で、中国工場員の給与を7割近くも引きあげた。

インドネシアでは2013年、米大手広告代理店ヤング・アンド・ルビカムの女性コピーライターが、数週間にわたる深夜までの勤務の末に24歳という若さで過労死したとの報道もある。

欧州でも若者の過労死や精神的ストレスによる大量の過労自殺

有給休暇が長く労働時間が短い国が多いことで知られる欧州からも、過労死や過労自殺が報告されている。2013年8月、バンク・オブ・アメリカのロンドンオフィスに勤務していた21歳のドイツ人インターン生が、72時間の連続勤務から自宅に戻った直後に脳卒中で死亡。このインターン生の死が、当時「インターン生の平均勤務時間は20時間」といわれていた欧州の金融産業に大きな波紋を巻き起こした。

しかしそれ以前にもフランスで大規模な過労自殺が問題となっている。2008年から2009年にかけ、大手通信会社、フレンチ・テレコム(現オレンジ)の従業員37人が次々に自殺を図るという衝撃的な事件が起きた。そのうち13人は一命をとりとめたものの、24人は他界。

これらの従業員の遺書では「仕事上のストレス」が自殺の理由とされており、英インデペンデント紙に掲載された労働組合代表のコメントから、フレンチ・テレコムでは従業員の行動(トイレに行く回数、食事時間など)が逐一管理下に置かれていたこと、休憩中も電話応対可能なようにWi-Fi通信機器の装着を強制されていたことなどが判明した。当時会長兼CEOを務めていたディディエ・ロンバルド氏は、事件の責任をとり辞任した。

こうした例は氷山の一角である。日本のように長時間労働が企業文化に定着していないため、逆に外部からは気づかれにくい、見えにくいグレーゾーンになっているのかも知れないが、海外でも程度に差はあるものの長時間労働やパワハラ話は日常的に耳にする。

今回の日本の過労自殺事件を通して「過労死・過労自殺は日本独自の問題じゃない」と指摘する声も徐々に高まり始めており、労働ストレス軽減対策としてフランスでは今年「勤務時間外の業務メール禁止法」が成立。ドイツでも2014年に社会民主党が「反ストレス法」の制定を提案するなど、ゆっくりとではあるが労働環境の改善を図る方向に動き始めている。

過剰労働、パワハラを含め、精神的・肉体的苦痛に苦しむ労働者の命の糸が、今日も世界中で切れそうになっているのだ。

文・アレン・琴子(英国在住フリーライター)/ZUU online

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