高校から大学、あるいは大学から大学院への進学にあたり一定の休学期間を経て入学する制度「ギャップイヤー」をご存じですか?欧米で馴染みのあるこの制度は、進学前に1年程度の時間を得て社会的な見聞を広めることが、主な目的とされています。ここではギャップイヤーとは何か、その効果と実践方法についても考えてみましょう。

ギャップイヤーとは?

まずギャップイヤーとは、どのような制度として成り立っているのでしょうか。

各国によっていくつかの定義がありますが、アメリカの非営利団体であるGYA(ギャップイヤー・アソシエーション)は、「一般的に高校卒業後、実用的・専門的・個人的認識を深めるため、キャリアや中等教育以降の教育を始める前に半年、あるいは1年の間経験を通して学ぶこと」としています。

つまるところ、初等教育から隙間なく家庭と学校という限定的な世界に生きていた若者たちが、これまで体験することのなかった“外の世界”を知るための期間として活用されているようです。

ギャップイヤーの導入例

ギャップイヤーの発祥地といわれる英国では、ロイヤルファミリーのウィリアム王子やヘンリー王子も、同期間を利用して世界各地でさまざまな経験を積んだことが知られています。

2016年には、オバマ前大統領の長女であるマリアさんが、ハーバード大学への入学を1年間延期してギャップイヤーを取得したことが話題になりました。いわずと知れた名門大学のハーバードでは、合格通知のなかでギャップイヤーを推奨するというユニークな取り組みを行っているそうです。

また日本でも、東京大学が2014年度から一部の学生向けにギャップイヤーを導入し、ほかの大学でも秋入学・秋始業という形で同制度が広がっています。

ギャップイヤーが生むポジティブな効果

このギャップイヤーを、単に「何もしなくていい期間」と捉えるのなら、それは有意義な時間とはいえないでしょう。実際、この期間に何をするかは個人の自由ですから、怠惰な時間を過ごすことは不可能ではありません。

しかし、ギャップイヤー取得者の多くは「その期間にしかできないこと」を通じて、自分の知らない世界を学ぶことを選んでいるようです。

ボランティア活動に励んでみたり、語学や資格試験の勉強をしたり、働いてお金を稼ぐことの苦労を学んだり、貯蓄したお金で留学や世界一周へと出かけたり……ギャップイヤーの使い方は、取得した人次第といえます。

ギャップイヤーで得られるものとは

ギャップイヤーを取得する上で大切なことは、与えられた自由を前にして「自分が何をしたいか、将来的にどんな人間になりたいか」を見つめ直し、自分自身の意志で行動することなのかもしれません。

先のGYAの調査データによると、ギャップイヤーによって7割を超える人が「人生の目的が見つかった」「仕事を見つける助けになった」と答えています。

また同調査によると、海外で長い時間を過ごすことで語学を学べることはもちろん、9割を超える人が「自分と違う文化をより深く理解し、尊重できるようになった」と回答しています。

そのほかにも、ギャップイヤーを使用した学生と使用していない学生では、大学の中退率に大きな違いがある(ギャップイヤー経験者のほうが有意に低い)という報告もあります。

若くして自らの意志で家庭や学校といった集団から離れ、“外の世界”に足を踏み入れることは社会的な見聞を大きく広げるでしょう。それは異なる文化やバックボーンをもつ人々との相互理解を促進し、今後の学問や仕事、ひいては人生の大きな糧となるはずです。