「相続税はお金持ちにかかるもの、自分には関係ない」と思っていませんか?2015年に改正相続税法が施行されています。この改正の大きなポイントは、「基礎控除額が少なくなった」ことですが、それにより相続税を支払う必要のある人が増加するなどの影響が出ており、相続税対策について他人事ではなくなってきているのです。相続税対策には不動産の活用が効果的と言われますが、それはなぜなのでしょうか。
相続税法が改正され課税対象者が増えた?
2013年度の税制改正により相続税法の一部が改正され、2015年1月1日以降に相続および贈与で受けとる財産への課税内容が変わることとなりました。この改正は40年ぶりに行われたもので、内容も大きく変わっていることから記憶に残っている人も多いのではないでしょうか。まずは、この改正内容のポイントについて解説します。
基礎控除額の引き下げ
改正前 | 改正後 |
---|---|
5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数) | 3,000万円+(600万円×法定相続人の数) |
相続税率の見直し
相続税の計算の基礎となる課税遺産総額が1億円以上の場合における税率が見直され、最高税率もそれまでの50%から55%に引き上げられました。
課税遺産総額 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | 変更なし |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15% | |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20% | |
5,000万円超~1億円以下 | 30% | |
1億円超~2億円以下 | 40% | 40% |
2億円超~3億円以下 | 45% | |
3億円超~6億円以下 | 50% | 50% |
6億円超 | 55% |
控除額の引き上げ
未成年者および障害者に対する税額控除額が引き上げられました。
対象となる控除とその額 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
未成年者控除額 (20歳までの1年あたりの控除額) |
6万円 | 10万円 |
障害者控除額 (85歳までの1年あたりの控除額) |
6万円 (特別障害者:12万円) |
10万円 (特別障害者:20万円) |
小規模宅地等の適用面積拡大
居住用の宅地、および事業との併用の宅地について、特例の適用面積が拡大されました。
対象となる宅地 | 改正前 | 改正後 |
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居住用の宅地 | 240平方メートル | 330平方メートル |
居住用および事業用の宅地 | 400平方メートル | 730平方メートル |
改正の一番大きなポイントは基礎控除額の引き下げです。この改正により、これまでよりも相続税非課税の対象となる方が少なくなり、課税対象者が増えることとなりました。
相続税の圧縮を行うメリットとは?
相続税の圧縮とは、「相続財産の内容を変えることにより、相続税を減らすこと」で、その方法の一つとして、不動産の活用が挙げられます。相続税の圧縮方法には、不動産の活用以外にも「生前贈与の活用」や「非課税枠や控除制度の活用」などがあります。 相続財産を現金のままで持っておくと、その価値で相続税を算出することになりますが、現金から不動産などへ変えることによって、相続税額の評価方法が変わり、結果的に相続税を減らすことにつながることがメリットと言えます。購入した不動産を人に貸すことによって、家賃収入を得ることもできます。
不動産の購入がいい理由とは?
相続税圧縮の方法の一つとして不動産の購入が選ばれる理由は、相続財産の内容を不動産に変えることでその評価額を下げることができるということが挙げられます。実際に不動産に変えることにより、相続財産の評価額は現金で持っておくよりも3割程度下げることができると言われています。
なぜ不動産だと現金より評価が下がるのか
相続税における不動産の評価については、土地と建物について評価方法が異なります。建物の場合は、固定資産税評価額で決まるため、その評価額は固定資産税額と同じということになります。土地の場合、一般的には「路線価方式」もしくは「倍率方式」で評価が行われます。
路線価方式とは、路線価が定められている地域で利用できる評価方法で、路線価をその土地の形状等に応じた奥行価格補正率などの各種補正率で補正した後に、その土地の面積を乗じて計算します。一方、「倍率方式」とは路線価が定められていない場合に用いられる評価方式で、その土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。
これらの計算に用いられる固定資産税評価額は、国の定める評価基準にしたがって各市区町村が決定するものですが、最終的な金額については、土地であれば公示価格と言われる毎年1月1日時点の標準的な土地価格の70%、そして建物であれば建築価格の50~60%程度になると言われています。
このように、現金と違って不動産の評価は固定資産税評価額が基準となることから、現金と比べると評価が下がることになります。
メリット
不動産を購入することにより、現金で保有しておくよりも相続税の算定基準となる評価を下げることができ、最終的な相続税の減額につなげることができることが一番のメリットです。それ以外のメリットとしては、もしその不動産が人に貸すことができるような物件であれば、貸し出すことで賃料収入を得ることができることが挙げられます。
デメリット
不動産で所有することで、現金で持つよりも分割しにくくなることがデメリットです。したがって、相続税対策として不動産を購入するのであれば、事前に遺産としての不動産をどのように分けるのかを記した遺言書を作成しておくなどの対策が必要となります。
不動産による圧縮例
たとえば、課税対象となる相続財産が現金のみであり、その総額が7,000万円だったとしましょう。そして配偶者は亡くなっており、相続人は子ども一人と仮定します。また、計算にあたり基礎控除以外の控除については考慮しないものとした場合の相続税額は、以下のようになります。
・全て現金で相続する場合
全て現金で相続する場合は、その額がそのまま評価額となります。したがって、まず現金の評価額である7,000万円から基礎控除額を差し引きます(7,000万円-(3,000万円+600万円)=3,400万円)。その額が課税遺産総額となり、該当する税率20%を乗じた680万円が相続税額となります。
・7,000万円で住宅(土地部分:5,000万円、建物部分:2,000万円)を購入した場合
不動産の場合は、路線価や固定資産税評価額によって土地や建物の評価額が決まります。仮に路線価方式で算定した土地の評価額が3,500万円、そして建物部分の評価額が1,200万円とすると、不動産全体の評価額は4,700万円となります。
相続税額はこの評価額をもとにして計算することから、4,700万円から基礎控除額である3,600万円を引いた1,100万円が課税遺産総額となり、それに該当する税率は15%となることから、相続税額は165万円となります。
このように、全て現金で相続する場合と比べ、不動産に変えることで相続税額を約500万円減少させることができるということになります。