革新的教育機関として、世界で注目を集めるアメリカのミネルバ大学。合格率わずか1.2%の超難関校である同大学の社会人向け大学院プログラムを修了した唯一の日本人が、植山智恵さんだ。

植山さんは新卒入社したソニーで8年勤めたのち、アメリカ・サンフランシスコに渡った。30代での学び直しを経て、帰国後に立ち上げたのが、自己革新したい大人のための短期集中プログラム『Project MINT』だ。

『Project MINT』は、社会人に向けた教育プログラム。ただインプットをするだけの場ではなく、自分が解決したい問題に対してアイデアを考え、副業やパラレルワークを通してと自分のミッションへ向け第一歩を踏み出す行動に移すところまで伴走し、自己革新を後押しする。

その中で重視されているのが、「ビジョンの言語化」だ。

「ビジョンは誰にでも絶対にある」とハッキリ語る植山さん。なぜ今ビジョンが重要なのか、その理由を聞いていくと、不透明な時代をハッピーに生きるヒントが見えてきた。

ビジョンをつくったのは、自分を見失った中学時代の原体験

私は2017年からの2年間、アメリカのミネルバ大学大学院で社会問題を幅広く見てきました。その中で抱いた問題意識の一つが、「なぜ大人は学び続けられなくなってしまうのか」ということ。

その原因の一つが、日本のシステムです。給料や立場など、世の中の評価に左右されてしまって、「自分が学びたい」という内側からの欲求に素直になれない構造があるように思いました。

あとは、年齢のステレオタイプの問題。

日本とアメリカの年齢ステレオタイプの度合いを比較したら、日本は顕著に高かったんです。年齢が低い人に対してクリエーティビティーが低いとか、仕事ができないといったジャッジをしてしまいやすい傾向にあります。

そういった問題を何とかしたいという思いに、離婚というパーソナルな変化もあって、「人生で何がしたいのか」を考えるようになりました。

そうしてたどり着いたビジョンが、「一人一人の個性を発揮する世界をつくりたい」というもの。一人一人が持っているクリエーティビティーを引き出し、それによって世界がどう変わるのかを見てみたいんです。

私がこのビジョンを言語化できたのは、つい最近のこと。『Project MINT』の教育プログラムを通じていろいろな人のサポートをしていく中で、最終的には自分の原体験に行き着きました。

ポストコロナ時代を生き抜く鍵は“健全な絶望感”「自分のピュアな気持ちに耳を傾けて」
(画像=『Woman type』より引用)

それは、自分を見失うような感覚に陥った、中学時代の体験。

私は元気な子どもだったのですが、中学校に入ると同級生は静かに過ごすようになって。それを見て、私は個性を消さなければいけないと思ってしまったんです。陰湿ないじめにもあい、登校拒否になってしまいました。

その時にすごくショックだったのが、「学校に行きなさい」と両親から怒られたこと。両親は学校の先生だったので、娘が登校拒否をしていることに対し、世間的に恥ずかしいと感じていました。

全然違う環境に行こうと考え、高校では1年間、オーストラリアに留学をしました。のびのびと暮らせて、これからは自分らしくやっていこうとも思ったんですけど、徐々に世の中の評価軸に合わせた方が楽だと思うようになってしまって。

それから当時の夫がアメリカに転勤になったことを機に会社を辞め、サンフランシスコに渡るまで、個性を発揮することに憧れを持ちつつも、日本のメインストリームのシステムをクリアしていくことのラクさに流されてしまっていました。

ビジョンは誰もが絶対に持っている。今はまだ見えていないだけ

世の中はすさまじいスピードで変化をしていますが、コアとなるビジョンは、自分の進むべき道を示すコンパスになります。

それがあれば、成し遂げたいミッションに向けて新しいことを学び、時には正しいと思っていたことを捨て、柔軟に変化し続けられる。

ポストコロナ時代を生き抜く鍵は“健全な絶望感”「自分のピュアな気持ちに耳を傾けて」
(画像=『Woman type』より引用)

ビジョンは「こういう世界をつくりたい」という、自分以上に大きな、普遍的なものです。そして「こういう世界を実現させたい」というのは、人間が本来持っているクリエーティビティーの塊だと思っています。

「ビジョンなんてない」と思っている人は多いですが、ビジョンは誰もが絶対に持っています。学校や会社で「あなたはどんな世界をつくりたいのか」と問われることなく、トレーニングをしてこなかったから見えていないだけ。

そもそも私たちは「組織の在り方に合わせなさい」と言われてきたから、ビジョンを持つ発想自体がないんですよ。自分の夢を語ったりしたら、「馬鹿じゃないの」って言われる空気があるのもよく分かります。

でも、この先は逆です。これから長く幸せに働いていくためには、ビジョンというコンパスを持って、パーパス(目的)ドリブンの意思決定をしていくことが重要です。

ビジョンがあると、意思決定はすごくシンプルになります。

「コロナ禍だから」ではなく、「私がこうしたい」という、内側から出てくるミッションに基づいた意思決定をして道をひらいていく。そうすると、共感し、協力してくれる人が自然と集まります。

ところが、現実は「恐れ」を起点に意思決定をしてしまっている人が多いもの。

私たちは外からの評価を気にしやすい環境で生まれ育っています。だから、自分のやりたいことも、もしかしたら「世間から評価されるからやりたい」と混同してしまっていることもあるかもしれません。

だからこそ、自分のやりたいことがどこからきているのか、見極めてください。

ポストコロナ時代を生き抜く鍵は“健全な絶望感”「自分のピュアな気持ちに耳を傾けて」
(画像=『Project MINT』のプログラム概要を説明する植山さん、『Woman type』より引用)

例えば「良い生活を送りたい」を突き詰めていった先にあるのは、「社会から取り残されたくない」「他人の目が気になる」といった外からの評価かもしれない。

それって自分起点ではなく、他者起点なんですよ。恐れから逃れるための意思決定をしてしまっている。

ミレニアル世代は「目的をもってキャリアを築きたい」と考える人が多い傾向にありますが、「目的を持たなければ」「意義のあることをしなければ」と疲れてしまっているのであれば、それは相手の期待に応えようとする「恐れ」が起点になっているのかもしれません。

大切なのは、自分に正直になること。恐れもあっていいんですよ。「もっとピュアな気持ちでやりたいと思えることじゃなければ」という、「こうでなければ」の考え方自体が恐れですしね。

ただし、ネガティブな気持ちもちゃんと見つめること。そして、恐れ100%にならないこと。願いを全く持たずして、恐れが100%になってしまうと、「あなたの人生は世の中の恐れによって生かされている」ことになってしまいます。