職業生活30・40年の中で、出産・育児にまつわる休みはみんな取り戻せている
村木:私が若い時、自分の先輩たちが「彼女は○○のポストの時に子供産んで○カ月休んだよね。」というようなことを陰で言われているのを聞いたことがあります。
「こういう風にいわれるのだ」と思ったのと同時に、あまり言われたくないなとも思っていました。が、それから10年くらい経ってみると、誰がいつ出産をしたかなんてほとんどみんな覚えていないし、何か言われたとしても仕事をしっかりやっていれば、それがどうした? となってしまう。
そういうブランクは忘れられていって、今どのくらい実力があって、どういう仕事ができているかということに目が向くようになる。そしてその上で家族を持っていて幸せで育児も楽しんでいるね、というプラスの情報だけが残る。
私はこのような10年くらいのタームの変化をみてきて、「ああ何だ、その時は多少色んなことを言われることはあるかもしれないけれど、職業生活30?40年の中で、子どもをもつということはすごくハッピーなことだし、かつみんな取り戻せちゃっているなあ」と思いました。
本人はみんな謙虚に「あの時は少しスピードダウンしなきゃいけなかったからここが足りない、ここが弱い」などと思うことは多くあるけれど、客観的に見たら、少し遅れていたとしてもガーっと追いついてみんな同じ水準までいっている。だからそれを見ると何も心配いらないなと思います。
確かに3年目で一年休んだら4年目の人とどれだけ差がつくのだろうとその時は怖くなりますよね。けれどその時も、私はワンランク下の二軍選手なのだと諦めるのではなく、今はたまたま遅れているけれどすぐに追いつけると思ってまた普通に歩き出すと、最後には何の差も残らないと思います。29年目になったら、30年との差は、そんなに怖くないでしょう。
編集部:テレビでは子育てや仕事との両立で苦労なさっているお母さんを見ることが多いので、子どもをもって後悔している方はいないということに驚きました。
村木:確かにお母さんは大変だという情報が多いですよね。ですが、子どもが手を握ったと喜び、右を向いたと喜んで、子育ては本当に楽しいのですよ。また、私の仕事仲間で海外に赴任した人は、独身で海外に行くのと子どもを連れて行くのとでは、全然社会との関わりの深さが違うと言っていました。幼稚園、学校、教育、社会はどんなものなのかと、知る分野がグーッと増えるのですよね。ビジネスだったら、オフィスの中だけの出来事で終わってしまいますが、子どもがいることで社会との関わりはとても深いものになります。
そして、子どもがいることによって自分ではやらないことを体験できることがたくさんあります。子どもと一緒に出掛けるにしろ何にしろ、なにかを一緒にするということはとても楽しいし、子どもは自分の人生を豊かに彩ってくれる存在だと思っています。
編集部:娘さんは“ワーママ”だった村木さんをどのように思ってらっしゃったのですか?
村木:この間改めてその質問をしてみたら、「うーん、お母さん楽しそうに仕事していたよね。だから社会に出ることをポジティブに考えられて、仕事って面白いのかもしれないと思えた。社会と仕事に対してプラスのイメージが持てた。」と言ってくれました。
日本のお母さんはとても真面目だから、子どもたちとの時間を犠牲にして仕事をするということに罪悪感を覚えて、仕事を楽しんでいることを抑制して言わない方も多いと思います。しかし娘はそのように働く私を受けとめてくれていたんだな、面白いなと思いました。
残業は深夜に及ぶこともあったけれど、保育園と保育ママさんの二重保育と旦那さんの協力で子育てを乗りきってきたという村木さん。家事についても「私がやってあなたがお手伝いじゃなくて、二人でやることでしょう?」と旦那さんに言いたいことをきちんと言うというスタイルで、自分だけにかかる負担でストレスがたまる事態を防いでいたそうです。だんだん責任の重くなる仕事のやりがいと家族と過ごす時間の幸せを感じてこられたのは、いつでも一生懸命に目の前のことをこなし諦めなかったから。今、労働環境などの理由で働きたくないと感じる学生も少なくありません。しかし、村木さんは仕事を通じて自分を成長させ、人との繋がりを得て、自分のお子さんには社会人になることへのプラスイメージを与えました。出産や育児と一見仕事とは無関係に思えることは人を良い方向へ成長させてくれるそうです。村木さんのおっしゃった“くるたのしい=苦しいけれど楽しい”この言葉に当てはまる仕事も子育ても、自分なりのスタイルで両立させた村木さんのインタビューでした。
村木 厚子さんプロフィール
1955年高知県生まれ。1978年高知大学卒業。同年労働省(現厚生労働省)入省。女性政策、障がい者政策などに携わり、2008年雇用均等・児童家庭局長、2012年社会・援護局長などを歴任。2013年7月から2015年10月まで厚生労働事務次官。著書に「あきらめない」(日経BP社)、「女性官僚という生き方」(共編)(岩波書店)など
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