お金の不安を感じて老後も懸命に働き続けた結果、もらえるはずだった年金がもらえなくなった……。これは実際よくある話です。年金制度を知らなかったために、あとからショックを受けたり老後の計画が変わったりしてしまうケースもあります。Sさんの例を見てみましょう。

がんばって働いたら損!?

Sさんは長年勤めてきた会社を60歳で定年退職しました。退職金はあったものの、今後まだ何十年も生活していくことを考えると金銭的に不安だったSさんは、元の会社で再雇用の嘱託社員として働き続ける道を選びました。

再雇用後はそれまで月35万円あった給与が約20万円になるという条件でしたが、できるだけ長くしっかり働いておきたいと受け入れました。

ところが、いざ年金を受け取る時期になってびっくり。年金と会社からの給与を合わせた金額が基準を超えていたということで、本来受け取れるはずだった年金より月額2万円以上も少なくなっていたのです。

「完全に引退して悠々自適に暮らしている友人は全額もらえて、働いて一生懸命稼いだ自分は1年で25万円も年金カットなんて、働いて損した気分……。そのお金があれば贅沢な旅行でもできたのに」と嘆くSさん。

定年後、引退するのか、フルタイムでしっかり働くのか、「週3回だけ、短時間だけ」など負担にならない程度に軽く働くのか、具体的な手取り額も考えてもう少し踏み込んで考えればよかったと少し後悔しています。

働いたら年金が減るしくみ

Sさんの年金が少なくなったのには次の2つの制度が関係しています。

・在職老齢年金……働きながら年金を受ける場合、収入によっては年金が一部停止または全部停止に。
・高年齢雇用継続給付……賃金が60歳時点の75%未満になったら受け取れる給付。これを受け取るときは年金の一部が支給停止に。

年金はあくまで「老後を迎えたから」など今までのご褒美やお祝い的な意味ではなく「年齢を重ねた結果働けなくなったから」受け取れる保険のようなものという考え方が基本です。

まったく働かずに満額の年金を受け取る場合と、しっかり働いて年金が減額されるのとでは、後者の方が手取り収入としては多いのですが「なんとなく損な気持ち」になってしまう方もいるでしょう。

これらの制度は厚生年金に加入している方が対象ですので、自営業の方などは関係ありません。同じ会社で働き続けるにしても、雇用契約ではなくあえてフリーランスとして契約して、年金カットを回避する方もいます。

ちなみに、在職老齢年金は2022年4月から内容が一部見直されます。60歳~64歳の方は支給停止になる収入の基準が上がります(年金と給料の合計が月28万円→47万円)ので、今後はよりしっかり働きやすくなるでしょう。

年金制度を理解して対策しておこう

年金制度は非常に複雑なしくみになっていて、しかも生まれた年や法改正などの影響も受けます。完全に把握するのは難しくても、せめて自分に関連するところだけはポイントを押さえておくようにすると、老後の計画を立てやすくなりますよ。

年金事務所や「ねんきんネット」などで自分の場合はどうなるか具体的に試算することもできます。疑問に思ったら相談して、定年退職を迎える前には、お金のことも仕事のことも解決して気持ちよく次に進める状態を作っておきたいですね。

文・ばばえりFP事務所代表)
自身が過去に「貧困女子」状態でつらい思いをしたことから、お金について猛勉強!銀行・保険・不動産などお金にまつわる業界での勤務を経て、独立。むずかしいと思われて避けられがち、でも大切なお金の話を、ゆるくほぐしてお伝えする仕事をしています。AFP資格保有。

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