厚生労働省は1月22日、2021年度の年金の支給額を0.1%引き下げると発表しました。年金額が下がるのは実に4年ぶりになります。これは賃金変動率がマイナスになったことが原因ですが、今回はこうした年金額が増減する理由と、将来の年金の見通しをご紹介します。

2021年の年金支給額は0.1%減

2021年の年金支給額が0.1%引き下げられることが発表されました。これにより、新たに年金をもらい始める人(新規裁定者)の2021年の国民年金(満額)と標準的な厚生年金は以下の額になります(表1)。

表1.2020年と2021年の年金額の比較(新規裁定者)

2020年度 2021年度 差額
国民年金(満額) 6万5,141円 6万5,075円 −66円
厚生年金(※) 22万724円 22万496円 −228円

※年金の受給者が平均的な収入で40年間就業した場合に受け取る老齢厚生年金と、2人分の老齢基礎年金(満額)の水準

金額はわずかですが、年金が減ったことで将来が心配になる人もいると思います。では、なぜ年金額は毎年変わるのでしょうか。

年金額はどのように調整される?

賃金変動率と物価変動率

これから新たに年金をもらい始める人(新規裁定者)の年金額は、現役世代の賃金の変動によって変わります。年金は老後の主な収入なので、現役世代の収入が増えたら年金も増え、現役世代の収入が減ったら年金も減ることで、双方にとって公平になるように調整されます。

一方、今すでに年金を受け取っている人(既裁定者)は、他の収入がない場合、物価が急に上昇すると途端に生活が苦しくなってしまいます。したがって、物価が上がると年金の支給額も上がり、高齢者の生活に大きな支障が起きないように調整されます。

ただし、物価が上がっても賃金が下がったり、物価ほど賃金が上がらなかった、または物価は下がったけど賃金はもっと下がったりすることもありえます。2021年4月から、これらの場合、既裁定者の年金額も賃金の変動によって調整されることが決まっています。

つまり、物価の変動に応じて年金額を変える必要はありますが、現役世代の賃金が下がった時はそれに応じて年金の支給額を調整することで、世代間の不公平さを無くすという意図があります。

マクロ経済スライド

もう1つ年金額に影響を与える要因が、「マクロ経済スライド」と呼ばれるものです。マクロ経済スライドとは、現役世代の人口の減少や平均余命の伸びに応じて、年金の給付水準を調整する仕組みです。

このマクロ経済スライドの目的は、年金制度を将来にわたって維持することです。

現役世代の人口が減少すれば年金の保険料収入が減ってしまいます。また、公的年金は終身年金なので、平均余命が伸びればその分トータルの給付額も多く必要になります。つまり、年金制度をできるだけ長く維持するには、こういった社会情勢に応じて年金額を改訂する必要があるのです。

ただし、このマクロ経済スライドによる調整は、賃金や物価による改訂率がマイナスなら翌年以降に持ち越されることになっています。

●2021年の適用例

では、2021年の指標を見てみましょう(表2)。

表2.2021年度の参考指標

賃金変動率 -0.1%
物価変動率 0.0%
マクロ経済スライドによるスライド調整率 -0.1%

賃金変動率がマイナスで物価変動率を下回る場合、新規裁定者と既裁定者の年金はどちらも賃金変動率(-0.1%)によって改訂されます。また、賃金や物価による改訂率がマイナスの場合、マクロ経済スライドによる調整は行われず、翌年度以降に持ち越されます。

結果、2021年度の年金額は0.1%の引き下げになりました。

マクロ経済スライドの持ち越しは将来の負担を上げる可能性も

2021年度は賃金変動率がマイナスだったため、マクロ経済スライドによる調整は行われませんでしたが、前述のようにマクロ経済スライドは年金制度を維持するために必要な調整なので、年金の減額幅が軽減されたからといってと安心できるものではありません。

マクロ経済スライドの持ち越しが続くと、将来の年金額に影響が出ます。近い将来、物価が急に上がったにもかかわらず、年金額はそれほど変わらなかったということも起こり得るのです。

年金額の増減は年金制度の維持のため

年金額の増減は、世代間の公平さを保つためと、年金制度を維持するために必要なものであることをご紹介しました。老後の生活に年金は欠かせないものです。普段から年金制度に興味を持ち、今後の年金制度がどうなるかを考えることで、適切な対策を取れるようになりましょう。

文・
肩書・ライツワードFP事務所代表/ファイナンシャルプランナー
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、 帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。

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