共同養育を進めるには、まずトーンダウンさせ、勝負から降りる

編集部:離婚後のその家庭や子どもにとって、よい形を冷静に考えるには?

水谷:まずは自分の燃えたぎる感情をトーンダウンさせることです。感情を吐き出してただ聞いてもらう、そういったメンタルケアサービスが日本では圧倒的に足りていません。その段階を経ていると、共同養育の話は進みやすくなると思います。これは弁護士や裁判所、行政だけでは十分な対応ができないので、カウンセリングや、面会交流のサポート機関であるりむすび*さんなどの民間サービスの登場なのです。

編集部:なかなか友達にも話しにくいですからね…。耐えきれなくなった時に受け止めてもらえる場所があると、ありがたいです。

水谷:あとは夫婦の争いで「勝つか、負けるか」「平等・不平等」という発想から解放されることかなと思いますが、なかなかこれは難しいですね。

編集部:これは精神的成熟度が試されますね…。これらができていると、養育費の不払いや面会交流の拒否なども起きなさそうです。現状、養育費を継続的に受け取っているのが25%だけだと聞きますが。

水谷:必ずしも支払われない家庭ばかりではないのですが、勤め先が安定していなかったり、離婚後の子との交流が十分でなかったりすると、払われなくなる傾向にあります。離婚協議書、公正証書にしたり、家庭裁判所での調停にしたりすると強制執行が可能ですが、そもそもそれすらしていないと、強制手段がない。 そもそも、日本は不払いになった時に、保証する制度がないことがこれまで問題とされてきました。今年から法制審議会で養育費の不払い問題の解消に向けた議論が本格的になされ、行政が立て替える制度や、民間が回収する制度などが検討されています。

*一般社団法人りむすび 離婚相談、コンサルティング、話し合いによる離婚サポート、面会交流サポート、共同養育実践に向けた講座などを行う団体

円満離婚は、果たして世の中に存在するのか

編集部:先生が考える、円満な離婚ってあるのでしょうか?

水谷:正直なところ、ないと思います。円満だったら離婚しませんからね。海外ドラマでも、週末パパの家に過ごすために迎えにきた元夫に子どもが抱きつく、それを元妻は微妙な顔をして見送っているというシーンがあるじゃないですか。あれでいいんだと思います。微妙な表情をしつつも、子どものために元夫とやりとりできればそれでいい。

編集部:これまた、精神的な成熟度を求められていますね。

水谷:お互い平等で、お互いせいせいして…はあり得ないので(苦笑)。円満=平等と言う考え方をしていると苦しくなりますから、そう言う意味では、円満離婚を期待しない方が、円満かもしれません。時間が経ってから「円満だったね」となればいい。

ただ、共同養育をする上で注意しなくてはならないのが、子どものことで衝突が続いてしまうこと。たとえば、「私、忙しいから子どもの面倒を見て!」となるとまた衝突が始まるので、ここは気をつけた方がいい。必ず「子どもファースト」でなければなりません。

編集部:確かに。そこは違いますね。大人にとってのデメリットはありますか?

水谷:相手との接触が続くこと=ストレスは無くなりません。たとえば、相手の子育ての仕方が気に入らなかったり、ほかの異性の影がちらついたり…そこに対してお互いに個人として尊重して、ときに半目をつぶる事ができないと、正直厳しいかもしれません。

編集部:なるほど。実際に共同養育されている方の具体的な手段は?

水谷:子どもの成長によっても変わりますし、家族によっても異なりますが…、例えば、子どもの保育園の送迎を曜日で交代制にする、土日は完全にパパの家で過ごす、あとは夏休みのロングバケーション…などでしょうか。子どもが無事に楽しんで帰ってくるとのは、相手への信頼につながります。

編集部:具体例を聞くと、より想像できますね。そこに必要なのが半目をつぶる精神ですね。

水谷:そう。とにかく「子どもにとって何が大切か」と言う視点です。親が仲良い必要はないので、あくまで子どもに対して両方から愛情を支えてあげる。その発想であれば、円満離婚と言っても良いかもしれませんね。

編集部:今日はとても深く、貴重なお話ありがとうございました!

共同養育=どうしても一緒にいられなくなった夫婦が「子どもファースト」で考えるためのスタイル。そして、あくまでも一つの選択肢で、その家庭にとってどのスタイルがいいか、を選べる良さがあるので、まずは知っておくことが大切ですね。そう言う意味でも、社会として「離婚してもふたり親」と言う認識が広がる必要性を感じました。次回は、共同養育をソフト面からサポートしている「一般社団法人 りむすび」の代表・しばはし聡子さんにお話を伺います。こちらもお楽しみに。

水谷 江利さんプロフィール

東京都立大学卒業後、新卒で大手弁護士事務所に入社、渉外企業法務を志して弁護士に。「もっと人の人生の近くで仕事がしたい」との思いから、2015年世田谷用賀法律事務所を開所。現在は個人の相続、離婚、不動産を中心に、国際離婚や企業顧問なども多く取り扱う。英語対応可能。東京弁護士会所属。東京都世田谷区所在。

提供・LAXIC


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