ラシク・インタビューvol.188

一般社団法人 りむすび しばはし 聡子さん

前回から、離婚しても「ふたり親」で育てる共同養育を特集しています。 先進国では当たり前に進められている共同養育ですが、日本では、離婚すると同時にひとり親となり、同居していない実の親とは面会交流もされていないケースが多いのが現状。養育費の不払いに始まり、シングル家庭の貧困が社会問題になっています。

そもそも、“子どもファースト” で考えた場合、離婚しても親子関係そのものは変わりありません。二人で分担して育てる方が、子どもにも親にも社会的にもメリットが大きいのですが、まだまだ認知されていない難しさがあるようです。

そこで、今回は共同養育の実践に向けたサポートをされている一般社団法人「りむすび」の代表、しばはし聡子さんに、共同養育への進め方など実践的なお話を伺いました。

*このインタビューはワーキングマザー向けメディアという特性から、同居しているのが母、別居している方が父と仮定して進めています。

自らの離婚経験を通し、子どもへの影響の大きさに気づく

【共同養育特集】別れても、ふたり親。離婚後の家族を第一線で支える「りむすび」代表しばはし聡子さんインタビュー
(画像=しばはし聡子さん/オンラインにて取材を行いました、『LAXIC』より引用)

編集部:まずは、しばはしさんが「りむすび」を立ち上げたきっかけから教えていただけますか?

しばはし聡子さん(以下、敬称略。しばはし):6年前、自分が離婚を経験した時に、元夫と関わりたくないが故に「子どもを父親に会わせたくない」という思いがありました。私が後ろ向きでいる間、子どもが精神的に不安定になってしまい、その時のことをひどく後悔したのがきっかけでした。はじめから「離婚しても、二人で育てる」という発想があればこんなことにはなりませんでした。ですから、離婚に悩んでいる方が「離婚後も親子関係は変わらず、親同士の関係も続く」ということを(別居前から)理解しているかどうかで、その後の子どもの人生を変えると痛感したのです。

当時は、弁護士からも離婚後の子育てについて助言はなく、離婚に関するノウハウ本などを読んでも書いていませんでした。だからこそ「私が発信しないと!」と使命感にかられ、20年間勤めた会社員を辞めて一念発起しました。

編集部:その頃は「共同養育」という言葉はありましたか?

しばはし:あったかもしれませんが、耳には入ってきませんでした。日本ではなんの悪気もなく「離婚=ひとり親」が当たり前で、「離婚後も、二人で育てる」という発想がありません。子どもからしてみると、愛してくれる親が一人いなくなるのですから、大事件ですよ。そのことをもっと大人が理解しておかなければ。

編集部:確かに、離婚すると一人で育てるのが当然だと思っていました。子ども中心に考えればわかることなのですが…。

しばはし:まだ、離婚に直面していない時だと「離婚後も、一緒に育てる」という考え方もすんなり受け入れやすいですが、いざ離婚の当事者となると、相手と関わりたくない=会わせたくないという考えになりやすい。社会全体の共通認識としてこの考え方がベースあれば、必要以上に相手との関係を悪化させずにすみますし、愛する子どものためになるのです。

まずは感情のもつれを整理し、正対することが共同養育への第一歩

編集部:共同養育を進める際に、どう進めればスムーズに進むのですか?

しばはし:夫婦がもつれる原因は、感情面が最も大きいです。協議にしても、調停にしても、感情のもつれを解かないで、いきなり「取り決めしましょう」と言っても、スムーズに進むはずがないですよ。まずは、各々自分の気持ちを整理しお互い葛藤を和らげてから、子どものことを考え、離婚の取り決めを進めるのがいいと思います。

編集部:怒りが収まっていない中で話を進めても、冷静な判断できませんね。

しばはし:同居中にどういうことがあったかをまず正対して気持ちを整理してから、歩み寄る方法を考えた方が、新しい人生のスタートを切りやすいです。りむすびではそこの気持ちの整理のお手伝いをしています。

編集部:そういったネガティブな感情は、正直、友達にも話しにくいですから…。専門家に聞いてもらえて、気持ちに整理がつけられるなら非常に心強いですね。

しばはし:「会わせたくない」という気持ちは感情ですし、そこは否定できません。私も当事者でしたから、「とにかく、会いたくない」「会わせたくない」という気持ちは非常に理解できます。そんな中でも、前に進もうと相談に来られたことだけでも素晴らしいことです。ですから、「感情と行動を分けましょう」というお話しをしています。相手と仲良くなる必要はありませんし、子どもの前でその感情を見せなければいいので。

編集部:なるほど!理解してくれる人がいると、それだけで勇気づけられます。

しばはし:あと、本人がそこまで思っていなくても、周囲からの影響で「会わせたくない」という気持ちが強くなることもあります。たとえば、親が「縁を切りなさい」「実家に帰ってきなさい」となると、共同養育は難しくなりますし、弁護士が入ると、有責主義の世界なので相手を責めないといけない。

編集部:周りに惑わされないためにも、まずは自分の気持ちを落ち着かせて、方針を決めてしまうことが大切なのですね。

理想的な共同養育のカタチ、そこに求められるのは…

編集部:ご相談に来られる方は、どのタイミングで相談に来られますか?

しばはし:離婚調停中で「(離婚後子どもに会えていないので)会わせてほしい」と願う男性が7割、「会わせたくない」という女性が2割。そして最近増えているのが、「共同養育を前提に離婚したい」という経済力のある女性です。

編集部:「共同養育前提」で動き出しているワーママがいるのですね!?

しばはし:働いている女性は当然経済力がありますからね。ただ、ここで一つ誤解してほしくないのが、共同養育ができるからといって離婚のハードルを下げないでほしいということ。どうしても上手くいかず夫婦関係が破綻している場合は、共同養育をぜひ考えてほしいです。

編集部:共同養育はその耳触りの良さも相まって、円満離婚、新しい家族のカタチ、などとポジティブに捉えられがちなのかもしれませんね。

しばはし:円満離婚という言葉は、親にとって都合がいいだけの言葉なのであって、子どもにとって離婚は離婚なんです。

編集部:確かに…!ちなみに子どもにとって良い共同養育とは?

しばはし:会う頻度が多いに越したことはありませんが、まずは子どもが両親のことを自由に言葉にすることができて、自由に行き来できる環境があること=親同士が争っていないことが大切です。そこをベースとして作った上で、頻度だとか新しい親子関係ができてきますから。以下の3つ柱が大事だと思います。

親子交流の頻度+親子関係+親同士の尊重=共同養育の充実度

編集部:関係が破綻している夫婦が相手を尊重し合うまでに、どのぐらい時間がかかるのでしょう?

しばはし:両者ともに「二人で育てる」という認識があると、会うための方法など建設的な話し合いになりますが、認識が違っていると「どうして会わせないといけないの」という話からのスタートなので、かかる時間は大きく異なりますね。

編集部:その場合はどういったアドバイスを?

しばはし:相手を変えることはできませんが、自分が変わることで相手に示すことはできます。両者とお話ができるとき、会えない側には「共同養育しやすい相手になりましょう」と伝え、一方で夫が怖いから会わせたくない人には「相手の怒りは不安から来ています、一歩踏み出すことで変わりますよ」とお伝えしています。「子どものため」という正論だけでは潰れてしまうこともあります。別れたいと思っている相手に対して歩み寄るのは、心のケアと伴走が必要です。でも、徹底して歩み寄り姿勢を持てるようになった人は、子どもと会えるようになっていますよ。