現在の日本には、介護保険制度というものが存在し、介護が必要になった際には在宅や通所の介護サービスを受けることができます。しかし、こうした介護サービスだけでは十分ではないと考える場合の選択肢として、介護施設への入所があります。公的施設や民間の介護施設にはどんな種類があり、そして費用はどのくらいかかるものなのでしょうか。
介護が必要になった親
身内が介護状態になった際、まず考えるのは自宅で介護を行うのか、もしくは施設に預けるかという選択でしょう。昔であれば、親と同居している長男夫婦が老後の面倒を見るという考え方が主流でした。しかし、核家族という考え方が広まるにつれて、長男夫婦も親と離れて自分たちの家族だけで生活するケースが多く見られます。
また、仕事の関係で実家がある土地とは離れた場所に生活の本拠を置き、そこに住み続けている人も多いのではないでしょうか。そうなると施設に預けて介護を行う、いわゆる「施設介護」が選択肢の1つとして浮上してきますが、その際に驚くのが介護施設の種類の多さです。
いざというときに慌てずに済むように、介護施設にはどのようなものがあるのか、そして受けることができるサービスや気になる費用について、今のうちに理解しておきましょう。
介護保険施設と有料老人ホーム
介護保険施設とは、要介護高齢者のための生活施設やリハビリによって在宅復帰を目指す施設など、介護保険で利用できる公的な施設で高齢者向けの「介護サービスが付帯した施設」のことを言います。では介護保険施設と「有料老人ホーム」はどう違うのでしょうか?
厚生労働省が発行している「有料老人ホームの概要」によると、高齢者向け住まい・施設のうち「有料老人ホーム」とは、「老人を入居させ、『食事の提供』、『介護(入浴・排泄・食事)の提供』、『洗濯・掃除等の家事の供与』、もしくは『健康管理』のいずれかのサービスを提供している施設」と定義されています。
介護保険施設は非営利法人や地方自治体が運営しているのに対し、有料老人ホームは営利法人が主体となっています。このような意味からも有料老人ホームとは民間によって運営される施設であり、基本的に高齢者向けの「生活サポートを行う施設」であるということを知っておきましょう。
介護保険施設
介護保険施設には、地方公共団体運営している施設と社会福祉法人、医療法人などの非営利団体が運営している施設があります。そして介護保険施設には次の4タイプがあります。
・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)とは、要介護高齢者のための生活施設であり、厚生労働省によると「65歳以上の者であって、身体上又は精神上著しい障がいがあるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難なものを入所させ、養護することを目的とする施設」と定義されています。設置主体は、社会福祉法人や地方公共団体になります。
全国老人福祉施設協議会の公式サイトでは、特別養護老人ホームについてより詳しく紹介しており、「65歳以上の方で、原則として要介護3以上の方が契約により入所できる」とされ、施設内は、個室や4人部屋のほか、最近では各居室の間にリビングスペースがあるユニット型個室など、さまざまなタイプが用意されていることが分かります。
・介護老人保健施設
介護老人保健施設とは、要介護高齢者に家庭への復帰を目指すために、医師による医学的管理の下、看護・介護サービスのほか、作業療法士や理学療法士等によるリハビリテーション、また、栄養管理・食事・入浴などの日常サービスまで併せて提供する施設です。設置主体は、医療法人、社会福祉法人、地方公共団体などです。
利用できる条件としては、「介護保険法による被保険者で要介護認定を受けた方のうち、病状が安定していて入院治療の必要がない要介護度1~5の方で、リハビリテーションを必要とされる方」となっています。
・介護療養型医療施設
介護療養型医療施設とは、医療の必要な要介護高齢者のための長期療養施設で、病院または診療所であって、必要な医療等を提供する施設を言います。設置主体は、医療法人、地方公共団体などになります。
・介護医療院
介護医療院とは、要介護者に対し、「長期療養のための医療」と「日常生活上の世話(介護)」を一体的に提供する施設で、公的施設として2018年の4月に創設されました。設置主体は、医療法人、社会福祉法人、地方公共団体などになります。
長期療養を必要とする要介護高齢者のために、医療だけでなく生活施設としての機能を兼ね備え、看取りなどのケアまでをお願いすることができます。
この介護医療院が創設されたことで、よりプライバシーが確保された、いわゆる自分の部屋に近い環境を築くことができ、その環境の中で医療および介護サービスを受けることができることは、より利用者に配慮したサービスの提供が可能になっており、介護サービスの質の向上に繋がっていると言えるでしょう。
介護老人福祉施設 (特別養護老人ホーム) |
介護老人 保健施設 |
介護療養型 医療施設 |
介護医療院 | |
---|---|---|---|---|
基本的性格 | 要介護高齢者の ための生活施設 |
要介護高齢者に リハビリ等を提供し 在宅復帰を目指す施設 |
医療の必要な 要介護高齢者の 長期療養施設 |
長期療養が 必要な要介護者 のための施設 |
定義 | 65歳以上の者で 身体や精神上著しい 障がいがあるために 常時の介護が必要で、 居宅において これを受けることが 困難な者を入所させ 養護する施設 |
要介護者に対し、 施設サービス計画に 基づいて、看護、 医学的管理の下における 介護及び機能訓練 その他必要な 医療並びに日常生活上 の世話を行うことを 目的とする施設 |
療養病床等を有する 病院又は診療所であって、 入院する要介護者に対し、 施設サービス計画に もとづき、療養上の管理、 看護、医学的管理の 下における介護、 その他の世話、機能訓練、 必要な医療を行うことを 目的とする施設 |
要介護者に対し、 「長期療養のための医療」 と「日常生活上の介護」を 一体的に提供する施設 |
設置主体 | 社会福祉法人 地方公共団体 |
医療法人 社会福祉法人 地方公共団体 等 |
医療法人 地方公共団体 等 |
医療法人 社会福祉法人 地方公共団体 等 |
特定施設
そのほかにも特定施設というものがあります。介護保険上の「特定施設入居者生活介護」を提供する施設であり、以下の3つに分類されます。
・有料老人ホーム
おもに営利法人が設置主体となっており、高齢者のための住居を基本的な性格としています。「入浴、排せつ又は食事の介護」、「食事の提供」、「洗濯、掃除等の家事」、のほか「健康管理」のサービスを提供しています。
・養護老人ホーム
地方公共団体や社会福祉法人が設置主体で、環境的、経済的に困窮した高齢者が入居する施設です。ここでは、入居者を養護し、その者が自立した生活を営み、社会的活動に参加するために必要な指導及び訓練その他の援助を行うことを目的としています。
・軽費老人ホーム
地方公共団体や社会福祉法人のほか、知事の許可を受けた法人が設置主体となっており、低所得高齢者のための住居として位置付けられています。ここでは、無料又は低額な料金で、食事の提供その他日常生活上必要なサポートを提供しています。
有料老人ホーム | 養護老人ホーム | 軽費老人ホーム | 介護医療院 | |
---|---|---|---|---|
基本的性格 | 高齢者のための住居 | 環境的、経済的に 困窮した高齢者の入所施設 |
低所得高齢者の ための住居 |
長期療養が必要な要介護者のための施設 |
定義 | 入浴、排せつ又は食事の介護、食事の提供、洗濯、掃除等の家事、健康管理のいずれかをする事業を行う施設 | 入居者を養護し、その者が自立した生活を営み、社会的活動に参加するために必要な指導及び訓練その他の援助を行うことを目的とする施設 | 無料又は低額な料金で、食事の提供その他日常生活上必要な便宜を供与することを目的とする施設 | 要介護者に対し、「長期療養のための医療」と「日常生活上の介護」を一体的に提供する施設 |
設置主体 | 限定なし (営利法人中心) |
社会福祉法人 地方公共団体 |
社会福祉法人 地方公共団体 知事許可を受けた法人 |
医療法人 社会福祉法人 地方公共団体 等 |
費用の相場はどれくらい?
介護施設 | 運営母体 | 入居一時金 | 月額費用 |
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介護付き有料老人ホーム | 営利法人が中心 | 平均540万円 | 15~35万円 |
特別養護老人ホーム | 地方公共団体など | 不要 | 6~15万円 |
介護施設の費用相場については、民間の施設なのかそれとも非営利の施設なのか、また施設の種類によっても異なります。以上に代表的な施設の種類とその費用の相場について表にしてみました。
民間の施設についてはあくまで相場ですので、利用する地域などによって大きな差が出てきます。したがって、利用を検討する際には複数の施設の資料を取り寄せ、検討するとよいでしょう。