個人事業主としての業績が安定しているときに検討するのが会社設立、つまり「法人成り」です。事業所得(利益)が500万円を超えると法人成りしたほうが節税になることが多く、この額が一つの目安。ただし個人事業主と法人では、支払う税金の種類も仕組みも異なるため、節税のテクニックも変わってきます。

そこで今回は法人における税金の種類やそれぞれの仕組み、節税の注意点、工夫の仕方について解説します。なおこの記事で紹介する各種の税率・税額は、2020年3月以降に開業した民間企業を対象にしたものです。それ以前に開業した法人や特別法人などについては税率が異なるため、それぞれの地方公共団体のホームページなどをご参照ください。

法人が支払う税金

会社が支払う税金としてすぐに思いつくのは「法人税」です。しかし実際は、そのほかにもいろいろな税金を納めています。ここでは以下の9つの税金について確認していきましょう。

  • 法人税
  • 地方法人税
  • 法人住民税
  • 法人事業税
  • 消費税
  • 固定資産税
  • 源泉所得税
  • 住民税
  • その他の税金

1法人税

その名の通り法人の所得に課せられる国税です。資本金もしくは出資金が1億円未満の法人の場合、所得のうち800万以下の部分には15%、800万円超の部分には23.2%の法人税が課せられます。資本金1億円以上の法人の税率は、すべて23.2%です。法人税の申告期間は年度終了から2ヵ月以内で、納付もこの期間にしなければなりません。期限を過ぎると延滞税、利子税、不納付加算税などが課されます。

2地方法人税

「地方」という名称がつくため地方税と混同しやすいのですが、国税庁に納める国税です。地方財政の不均衡を是正するために国が地方公共団体に交付する「地方交付税」の原資となります。課税事業年度が2019年10月1日前の場合は4.4%、2019年10月1日以後の場合は10.3%です。

3法人住民税

住民税は自治体が住民サービスを行うことを目的として徴収しており法人に適用されるのが法人住民税です。住民税と同じように都道府県民税(法人県民税)と市区町村民税(法人市民税)の2階建てで構成されています。法人住民税には所得があってもなくても、資本金と従業員数に応じて必ず課税される「均等割」、法人税額に応じて課税される「法人税割」に分かれているのが特徴です。

法人税割は都道府県民税が3.2%(軽減税率適用の場合)、市町村税は各自治体で異なり9.7~12.1%です。軽減税率は、おおむね資本金1億円以下かつ法人税額年1,000万円以下の法人が適用になりますが、神奈川県や京都府、広島県など若干条件が異なるところもあるので確認しておきましょう。法人税割は法人税に税率をかけて算出しますので、法人税を節税できれば同時に法人住民税の節税にもなります。

また均等割は、法人の区分や資本金によって金額が異なるのが特徴です。例えば、東京都の特別区にのみ主たる事業所がある法人は、資本金1,000万円以下従業員50人以下の場合で7万円になります。資本金の額や従業者数が増えると、均等割額も大きくなる傾向です。なお法人の業績が赤字でも均等割額は毎年かかるため注意しましょう。

4法人事業税

法人は事業を行ううえで道路や港湾、公共施設などを利用し、消防や警察などによってその活動が守られています。このような公共サービスにかかるコストの一部を負担するのが、法人事業税です。法人事業税額は「所得×法人事業税率」で求められます。税率は各都道府県によって異なりますが、例えば東京都の普通法人で軽減税率適用の場合は、以下の割合です。

  • 課税所得400万円以下:3.5%
  • 課税所得400万円超800万円以下:5.3%
  • 課税所得800万円超:7.0% ※2019年10月1日以後に開始する課税事業年度の場合

    所得が赤字であれば法人事業税は課税されません。また法人事業税の大きな特徴は、前年度の法人事業税額を「損金」として所得に算入できる、つまり所得額を小さくできることです。税金が「経費」として認められるケースはきわめてまれです。なお2019年9月30日までの事業年度については、地方ごとの税収の不均衡を是正するために、法人事業税の一部を「地方法人特別税」として国が徴収し、各自治体に再分配するという措置が取られていました。

    2019年10月以降は「特別法人事業税」に制度変更しましたが、法人事業税と合わせて申告し、その一部から徴収する方式は同じです。

    5消費税

    モノやサービスの「最終消費」に課税されるのが消費税です。しかし企業や商店は仕入や経費で消費税を払い、売上とともに消費税を受け取っています。申告時には両者を相殺して(仕入税額控除)不足分があれば納付し過払いがあれば還付を受けているのが一般的です。ただし事業の規模や内容によって仕入ごとに消費税額を計上(原則課税)することが難しいケースもあるでしょう。

    そのため売上高に一定の「みなし仕入率」をかけて納税額を算出する「簡易課税」が認められることもあります。また前々年度の課税売上高が1,000万円以下の事業者は「免税事業者」となり消費税免除の対象です。この場合は仕入や経費で支払った消費税を所得から控除することはできません。税率は、国税にあたる消費税が7.8%、地方税である地方消費税が2.2%の合計10%です。

    消費税の申告と納税は、事業年度の終了から2ヵ月以内に管轄の税務署で行います。申告期限を延長する特例はありません。なお消費税については、2023年10月から導入される予定の「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」により、仕入税額控除の方法が大きく変わることが見込まれています。申請して適格請求書発行事業者にならないと、請求時に消費税を請求することができません。

    なぜなら軽減税率の導入により、複数の税率が同じ取引に混在するようになったからです。しかし課税事業者でないと消費税を受け取ることもできなくなるため、免税事業者でいることのメリットはかなり小さくなることが予想されます。消費税をめぐる制度は、その時々の社会情勢で大きく変わることがあるので制度変更にすぐに対応できるように日ごろから情報収集しておくことが重要です。

    6固定資産税

    毎年1月1日時点で土地や建物、機械などの固定資産を保有している場合、所在地の市町村(東京23区は都税事務所)から固定資産税が課税されます。毎年1月1日を基準に税額が決定されますが、事業者は毎年1月31日までに所有資産を市町村長(東京23区は所在する区の都税事務所)に申告が必要です。ただし市町村をまたいで所在する資産は申告先が都道府県知事、都道府県をまたぐ場合は総務大臣に申告します。

    また各市町村が規定した課税定額を超えるものは「大規模の償却資産」となり都道府県が課税します。固定資産の評価を行うのは課税庁です。取得価額を基準とし1品ごとに評価額を算出し市街地の土地や建物については都市計画税も加算されます。

    7源泉所得税

    従業員の給与から源泉徴収した所得税と復興特別所得税は、給与を支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。ただし給与を支払う従業員が常時10人未満の事業所の場合は、「納期の特例」として半年分ずつまとめて納めることができます。この特例を受ける場合、例えばその年の1~6月までの源泉徴収分は7月10日が、7~12月までに源泉徴収分した分は翌年1月20日が納付期限です。

    特例を受けるためには所在地を所轄する税務署に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出する必要があります。

    8住民税

    従業員の住民税は、「特別徴収」といって会社が給与から徴収し会社が従業員の在住する市区町村に納付します。以前は従業員が希望すれば本人が納付する「普通徴収」も可能でしたが、近年は特別徴収への一本化が徹底され給与所得者の普通徴収はほぼ不可能になりました。市区町村は給与支払者である事業所に市民税・県民税の決定通知書を送付。事業所は記載の徴収税額を給与から差し引き、銀行から各自治体に納付します。

    9その他の税金

    契約書や領収書に貼る収入印紙代の「印紙税」、従業員給与の10%前後の「社会保険料」、業務用の自動車があれば「自動車税」、不動産を取得した場合は「不動産取得税」と「登録免許税」などです。また大規模事業所には「事業所税」が課せられる自治体もあります。

    「法人実効税率」とは?

    ここまで見てきた税金が法人に課せられるわけですが、法人の利益に課せられる税金は「法人税」「地方法人税」「法人住民税」「法人事業税」「地方法人特別税」の5つです。ただし法人事業税と地方法人特別税は損金として利益を小さくする面もありました。法人事業税と地方法人特別税の減税効果を加味したうえで5つの税率を合算したものが「法人実効税率」です。

    計算式は割愛しますが、2021年12月決算の場合、資本金1億円超の法人で実効税率は30.62%、1億円以下の中小法人の場合33.58%です。これはあくまでも平均値であり、会社所在地による税率の差などを考慮していないので、実際に一法人に課せられる税率とは一致しません。

    節税対策は大きく2種類

    これらの税金はどうすれば低く抑えられるのでしょうか?「節税」という言葉の通り最終的には「税金を減らす」ことが目的となりますが、その考え方は2通りあります。

  • 損金(経費)を増やす→所得を減らす
  • 控除を増やす→税金を減らす

「損金」というとネガティブに響きますが、人件費や必要な設備投資、仕入も損金に含まれます。損金が大きくなれば事業所得も小さくなるので所得に応じて変動する税金の額が小さくなるというわけです。「控除」は、実際には所得そのものを小さくするものもありますが、計算の順序の違いで税金の軽減措置であることには違いありません。

この2通りの考え方に沿って、得した分が次年度以降の損となる「繰延型」と、毎年同じように得になる「永久型」の2種類の方法で節税を実践していくことになります。経費を増やしつつ控除も受けられるタイプの節税方法もあるので、単純に「2×2=4種類」とはなりませんが、4つのどこにかかっているかを考えると理解しやすくなるでしょう。

方法をもう1つ付け加えるとすればタックスヘイブンの利用や自家用財産を事業用として申告するなどの租税回避行為、いわば「抜け穴型」の節税です。ただしパナマの法律事務所が作成した膨大な量の租税回避行為に関する機密文書「パナマ文書」の漏えい事件を契機に国内外で租税回避行為への監視や防止する法改正など「抜け穴」はどんどん小さくなっています。

インボイス制度の導入も所得隠しや消費税の徴収漏れを防ぐ狙いがあり、今後も「抜け穴」は小さくなっていく可能性が高いでしょう。ここからは具体的な節税方法を説明していきます。