10年間伝えてこなかったこと、そして受け止めてもらえたこと
編集部:全6回の話し合いはどんな様子で?
板井:僕にとってはじめの方は絶望的な感じで…… 何度か泣きました。
安井:私は過去に感じていた「痛み」について彼に伝えました。彼はロジックが強いので、何かを言っても「でもな」ってすぐ論破されてしまうのです。私は言われたことに対しても「全て意味がある」とプラスに受けとっていたんですが、本当はそんな言われ方をしたくなかった。でもそのことを「嫌だ!」とも伝えてこなかった。今思えば、自分に対する冒涜でしたね。
板井:僕は問題解決思考が強いので、一つ一つ解決をしたいタイプで。でも10年間、僕がそうやって彼女を傷つけてきたこと、彼女が辛かったこと、初めてちゃんと耳を傾けたと思います。この対話中はただ、受け止めるだけでした。
安井:この時はただひたすら受け止めてくれて、全てが報われた感じがしました。分かち合うことを諦めなくてよかったと。
編集部:板井さんはどんな話をされました?
安井:「学習する夫婦」の話をしてくれました。夫婦でいる意味ってなんだろう、みたいな。
板井:それも最終的に望む自分のあり方に近づいた感覚があって。僕一人だとたどり着かなかったと思いますし、我慢強く向き合ってくれた人がいたからこそ、近づいたのだと思います。
安井:「この人と分かち合いたい」と思うことに理由はないんです。でも、この目の前の人と分かちあえなくて、他の誰かとなら分かち合えるの? って。もしこの人と分かち合えたなら、世界中の人と分かち合えるだろうなと。
編集部:では最終的にどのように着地したのですか?
板井:6回の話し合いを通じて、僕の中で夫婦という、ある種の”当たり前”が横たわっているせいで「(安井さんが不在だから、僕が)子どもを見なければいけない」という感覚があることに気づきました。その時、もし僕と離婚したら「(安井さんが不在なおかげで、僕は)子どもとの時間が取れる」と思えるのでは? と気づいたのです。最後、僕から離婚を告げました。
ピリピリがなくなり、子どもたちとパパとの関係性はマイルドに
編集部:お子さんたちにはどのタイミングで説明を?
板井:5回目ぐらいに対話している時に、9歳の長男に「パパ、いなくなるかも」と伝えると「そうなん?! ……まぁええで。怒ったら怖いし!」と。これ正直辛かったですね(苦笑)
でも長男、一人で暮らしの家によく遊びに来てくれるんです。「寂しいやろうから、一緒に寝たろか」みたいに。
編集部:いい話ですね。ほかのお子さんたちには?
板井:6回目の対話の後に、長男・長女の合同誕生会があって、最後に「お父さんとお母さんは離婚します!」と言いました。
長男は「離婚ってなんなん?」「卒業かな」「うーん、せやろな。パパとママ全然違うし」。すると小1の長女が「二度と会わなくなるの?」「お互いが嫌いになって別々になることではないし、君たちは僕たちの子どもには変わらないよ」と説明しました。
安井:子どもたちには「お互いが違うタイプだから別れるんじゃない」と伝えています。長男長女は、気が向けば料理も作ってくれます。親が二人とも規則的とは言えない生活をしていることもあり、両親や素晴らしいスタッフ、子供たちの友達のご家族や同じマンションのご近所さんまで、色んな人に助けていただきながら生活しているのが現状です。先日は彼の家に私含め全員泊まりましたし、もう決まった型はない感じですね。
編集部:全員で! いいですね。お子さんとの関係に変化はありますか?
安井:パパとの関係はすごく良くなったと思っています。これまでは彼がイラっとして子どもたちが萎縮する感じでしたが、今は怖さがなくなったので、前よりずっと良い関係性に。
板井:物理的に子どもたちとの時間はほぼ変わっていませんが、子どもがものすごく健やかになったと思います。僕らがピリピリしていると、子どももピリピリしていて。非常にマイルドになりました。
夫婦の肩書きをとったら、愛と尊敬と応援だけが残った
編集部:これからのお二人は?
板井:自分自身は単純に一人暮らしいで寂しいのですが(笑)とにかく「仕事を頑張ること」が大事なのは変わらないです。安井さんには傍らで彼女の生き方を応援する人がいた方がいいと思うので、願わくは、こういう関係性を認めてくれた上で、相手にもパートナーができ、僕にもパートナーができ、輪が広がり続けるといいなと思います。
安井:誰かが我慢して相手に合わせるとかではなく、子どもたちもみんなそれぞれがやりたいようにやって、それがバランス良ければベスト。地域も、境界線もどんどん飛び越えてほしいし、家族だからとか、夫婦だから、母親だから…… ではなく、自然の流れの中でつながりを大切にできたらいいなと思います。
板井さんのこともより大切になりましたし、この人が見る夢を見たいなとより思うようになりました。夫婦の肩書きの中で要らないものだけ持って行ってくれた感じです。人としての愛とかリスペクトとか、応援とか、そういうのが残ったねって。
編集部:すごい。愛と尊敬と応援が残ったって、最高ですね。これはお二人だからたどり着けた関係であって、誰もが当てはまるケースではないと思います。ただ、お話を聞いていて、私自身、夫婦でこんなに話し会えてないし、目の前にいる相手とも、自分自身とも、向き合えていないと感じました。
板井:そうですね。実際に、僕たちの離婚報告に対する反応が2パターンあって。「既存の枠を乗り越えた新しいパートナーシップだねって」っていう反応と「子どもがかわいそうじゃない? ありえなくない?」という反応と。
やはり僕の中では、このあり方が誰にも当てはまるような正解でもなければ、ましてや「新しいパートナーシップのあり方だ」とドヤ顔をして言いたい訳でもなく、それぞれの夫婦にそれぞれの答えがあって、互いに対話を重ね、向き合った先でのたった一つの真実しかないと感じていて。
前者の反応に対して思うことは、制度とか、仕組みとか、夫婦のあるべき姿みたいな「いわゆる既存の枠」ってあるようでないので、そこに振り回されず、目の前の相手との関係性に向き合い続けることがめちゃくちゃ大事だって伝えたい。さらに、相手に対して「何をしてあげるか」「どうあるべきか」の先に、ただ「相手のことが愛せていると幸せ」って思えるのがベストですよね。
後者の反応に対しては、それだけ多くの人が自分たち夫婦の関係に対して、悩んで、戦って、苦しんでいるからこそ、受け入れられないものがあるんだろうなと感じています。その戦いを自分たちに投影してしまうのかと。僕はそうやって子どもとパートナーのために日々頑張っている事に対して、全ての夫婦に大いなるリスペクトがあります。だからこそ、問題解決よりも先にとにかく向き合ってみて欲しい、と感じます。夫婦とは「子どもを守るべき」という考え方だけが語られ仮面夫婦化しつつも一緒にいる、そんな着地をしているケースも少なくはないと思います。互いが愛し合って始まった夫婦関係なら、色々問題があっても向き合う中で違いを理解し、進化し続けている自分たちの愛情に気づけるんじゃないかと思います。偉そうなことを言うつもりは更々ありませんが、そうであったら素敵だなって、思います。
編集部:その夫婦にしかわからないカタチ、そこにたどり着くには自分たちで向き合うしか方法はないのですね。それにしても、うちは対話が少なすぎるかも……
安井:大事なことって、意外と対話できていないと思います。私たちが正解! とかではないので、私たちが私たちである姿に触れてもらった時に、感じていただけることがもしあれば、ご縁ある方ですねという感じで(笑) 私たちにとって大切なことは、支えていただいている方達への、ありがとうの気持ちを忘れずに生きていくことですね。
編集部:確かに。自分の足りなかったところが見えてきました。ありがとうございました!
写真:お二人より提供
やはり、今回のお二人の円満離婚が、そのまま他の夫婦には当てはまらないと思います。ただここに至るまでの向き合い方というのは、とても深く考えさせられました。自分はここまで相手と真剣に向き合って、分かち合う努力をしてきたかどうか。「すべては分かり合えない」「考え方が違う」「所詮、他人」そう言って諦めていなかっただろうか。そして、いつの間にか「夫婦ってこうあるべき」という型にはまり込んで、相手との理想像を追い求めるでもなく自己処理して、単に型を共有しているだけになっていないか…… ということに気付かされました。
「夫婦だから」ではなく「私たちはこうしたい(から夫婦でいる)」を常に模索し続けていく(まさに板井さんのおっしゃる「学習し続ける夫婦」ですね)。そのカタチを見つけるためには、お互いの違いを認め合い、とにかく対話をし続けること。これに尽きるのだと思います。こうして見えてきたカタチが、それぞれのベストなパートナーシップのあり方になるのだと。まずは自分たちに置き換えて、自分と、相手と、しっかり向き合っていきたいと思います。夫婦って、聞けば聞くほど面白いですね。
板井恒理さんプロフィール
京都でキャリア教育や企業研修、コンサルティング、マーケティング支援システム(AI)の開発等をしている株式会社Credo Ship.代表(安井さんは役員として続投)。Plan.C LLP(有限責任事業組合)発起人・職務執行者。
安井亜希さんプロフィール
「いただいた命のバトンを次世代に繋ぐ」をモットーに、環境活動・神社復興・ワークショップや講演会企画等を行うLife DANCE主宰。NPO法人full bloom.代表理事、米国CTI認定プロフェッショナルコーチとして企業研修や経営者のコーチングなども行う4児の母。
提供・LAXIC
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