流氷の下でクリオネと泳げたらステキだと思いませんか。ダイビングといえば「夏」というイメージを持っている人は多いと思いますが、実は冬の海には夏にはない魅力がたくさんあるのです。冬のダイビングの魅力について、海とダイビングのウェブサイト『oceana+α(オーシャナ)』の山本晴美編集長と、企画営業部の積田彗加(すいか)さんにお話を伺いました。

冬に始めるのは大変なの?

(山本晴美氏(左)と積田彗加氏(右))

──冬のダイビングは夏と比べてどう違うのでしょうか。

山本晴美(以下、山本):冬は夏に着用するウェットスーツではなく、ドライスーツを着用します。浮力の調節が必要なので、多少ハードルは上がるかもしれません。

積田彗加(以下、積田):でもドライスーツ好きの人は多いですよ。ドライスーツは体がほとんど濡れないので疲れにくく、身支度がしやすいんですよね。人を引率する必要のあるダイバーは、ドライスーツをよく着用します。

冬にダイビングデビューをすればドライスーツが当たり前になるので、逆に夏になったら楽に感じると思いますよ。

(ミジンベニハゼ)

──そもそもドライスーツは何月くらいから着用するものなのでしょうか。

山本:海の中は、地上の2ヵ月遅れで温度が変化すると言われています。伊豆で言うと、地上の気温が下がってくる9月から2ヵ月過ぎた11月頃、水温20度を目安にウエットスーツからドライスーツに“衣替え”するダイバーが多いですね。寒さへの強さは人それぞれなので、一概には言えませんが。

──ドライスーツの他には何が必要ですか。

山本:頭部を保温するフードでしょうか。冬のダイビングは、気温・水温に適した装備を用意しましょう。また、ドライスーツの下に着るインナーは必要ですね。

(フードとドライスーツを着用)

──普通に陸上で使うようなトレーニングウエアに靴下を履くイメージでしょうか?

山本:そうですね。より快適に過ごせるドライスーツ専用インナーもありますよ。

──濡れませんか?

積田:ドライスーツによっては体にフィットしていなくて「水没」することはあります。でも袖先や首元から水がしみ込んでくる程度。体全体がビチョビチョになるわけではないです。念のため、着替えは用意しておくといいと思いますよ。

──ス、スイボツ……!それだけを聞くと何だか恐ろしいですが、大したことはないんですね。

山本:全然!言葉だけ聞くと、びっくりしちゃいますよね。

冬のダイビングの魅力とは?

──冬に国内でダイビングをするメリットは何だと思いますか。

山本:何と言っても、透明度の高さ!夏とは比べものになりません。あとは、冬にしか見られない魚に出合えることでしょうか。

積田:あと、やっぱり夏よりも空いています。

山本:そうそう。人が多いと珍しい魚が現れても、写真待ちの列ができて思うように写真が撮れないことも。冬なら一人占めできる可能性が高いですね。水中写真のスキルアップには、ぴったりの季節です。

──そうなんですね。では冬にしか見られない魚とは?

積田:たとえば伊豆だと、水深100メートルから200メートルにいるような深海魚が上がってきます。

山本:キアンコウはもう冬の風物詩ですね(笑)。

積田:昨シーズン、大瀬崎にはリュウグウノツカイが姿を現しました。透明度も高いので、魚の群れが映える時期でもあります。キラキラしていてとてもきれいですよ。

積田:あとダンゴウウオもかわいいですよ!

(ダンゴウウオ)

山本:赤ちゃんは天使の輪のような模様があるので、ダイバーにとっては冬のアイドルですね。特定の海草のところにいるので、比較的見つけやすいです。

──国内で「ここにはぜひ行ってほしい!」といった冬のダイビングスポットは?

積田:私は沖縄の与那国島ですね。ハンマーヘッドシャークの群れに遭遇したときは、かなり興奮しました。

(2016年1月に遭遇したハンマーヘッドシャークの群れ)

──もしかしてサメ好きですか。

山本:群れが好きなんだよね。

積田:そうなんです。大きい生物や群れが好きで、海で遭遇するとアドレナリンが出まくります。もともと人魚姫の世界観に憧れてダイビングを始めたのですが、本当に海の中は絵本みたいな世界が目の前に広がっていて感動しますね。

山本:私はクジラ好きから入りました。高校2年生の頃、イルカと泳ぎたいと思ったのがきっかけでダイビングを始めました。大学生のとき、写真家さんが主催する小笠原ツアーに参加したのは大きかったですね。

──学生が写真家と行くダイビングツアーに参加とは、すごい行動力ですね。

山本:今でも好きです。スキューバダイビングからは外れてしまいますが、冬はホエールウォッチングの季節でもあります。ザトウクジラが回遊してくるんです。小笠原や座間味、久米島、奄美大島などが、盛んですね。

2019年1月には、家族で奄美大島へ

(2019年1月には、家族で奄美大島へ)

──今後、冬のダイビングで行ってみたいところは?

積田:流氷の下のクリオネを見に行きたいですね。

山本:行きたい!北海道の流氷に穴をあけて、そこから潜ってクリオネを見るのですが、すごい人気で予約するのも大変なんですよ。

──ものすごく寒そうです。

積田:それはちゃんと防寒対策をしていかないとですね。今はヒートベストといって、電熱線で温めてくれるベストがあるので、そういうのは必須です。もちろんしっかり手袋もして。

山本:冬のダイビングというと大変そう!というイメージがあるかもですが、ダイビングショップでアドバイスをもらいながら寒さ対策をしたり、器材を用意したりすれば安心して始められますよ。

積田:そうですね。行ってみたいと思えば、行ってみればいいと思います。特に冬の海は、比較的空いているので、撮影の練習にもなりますしね。

山本:特にウミウシはあまり動かないので、見つけられれば撮影し放題だと思いますよ(笑)。

(鮮やかなウミウシが目をひく)

積田:冬から始めたら、夏頃には結構上達しているはずなので、ベストシーズンの国内の海を、ストレスフリーで思いっきり楽しめると思います!