そう、このメニューは、結が初めて翔也のために作ったお弁当のおかずでした。あいかわらず不器用な手つきで玉ねぎを刻みながら、結の頭の中には翔也との思い出が次々に過ぎります。

 高校時代、お弁当を渡したり、お弁当箱を返されたり。そういえば出会いは、2人でハシャいだ着衣海水浴だったな。イチゴもたくさんくれたし、野球の試合にも誘ってくれた。引退が決まったら改めて告白もしてくれて、「好きだよ、バーカ!」なんて言ったこともあったっけ。それから両思いになって、付き合い始めたんだよなぁ……。

 この回想シーン、悲惨なもんです。別れてしまった恋人との思い出の料理を作りながら、付き合う前のことばかり思い出すバカがどこにいるんだよ。こういうときは恋人同士で過ごした楽しい時間を思い出すんですよ。あのとき、あんなくだらないことで一緒に笑ったなとか、あの景色を一緒に見て感動したなとか、そういうことを思い出すの。『おむすび』制作陣各位に問いたいね。恋、したことありますか?

 そんなシーン全然ないじゃん! 神戸でイタリアン食おうと思ったときだってママ(麻生久美子)に呼び戻されたし、2人でいたのなんて「こんな雰囲気ゼロのお店」(兵庫県/女性20歳)の太極軒だけだし、あとは電話とメールばっかだし、プロポーズしてくれると思って浮かれたけど勘違いだったし、翔也がつらいときも寄り添ってあげようなんて全然思わなかったし、じゃあどこのシーンを回想に持ってくればいいというのか!

 いや、ギリあるんだよな。高台から神戸の街を見下ろして、翔也が初めて結を「米田結」というフルネームじゃなく、「結」と呼んだシーン。あそこは「2人が本当に恋人になった」という瞬間が確かに描かれていたんです。全部いいかげんにやってるから、忘れちゃうんだろうな。自分たちが作ったものすら、どんどん忘れていっているということが、あからさまに露見してしまっている。ねえ、悲惨なもんですよ。