「おばあちゃんスタンド」はただそれだけの場所である。もちろん無料で、おばあちゃんたちはボランティアで話を聞いてくれる。

自身の祖母が同僚の悩み聞いたことがきっかけ

 「おばあちゃんスタンド」を始めたのは、ニューヨークでマーケティングの仕事をしているマイク・マシューさんだ。きっかけは2012年にさかのぼる。

 職場の同僚の女性が生活で悩んでいた。マシューさんに相談をしてきたが、自分よりも自身の祖母アイリーンさん(当時95歳)に話を聞いてもらった方がいいのではないかと思い、西海岸のシアトルに住むアイリーンさんを紹介した。

 週末、同僚はアイリーンさんに電話し、悩みを聞いてもらったという。週が明けて月曜日にマシューさんは晴れやかな表情で仕事に打ち込む同僚を見て、おばあちゃんの存在の大きさに驚かされた。

 マシューさんはより多くの人に経験してもらおうと「おばあちゃんスタンド」をスタートさせた。週末、街角に「スタンド」が立ち、アイリーンさんはオンラインで街ゆくニューヨーカーと直接、話をした。

 アイリーンさんは、かねてからニューヨークに来たいと思っていたが、高齢でかなわなかった。来ることはできなくても、話をすることでニューヨークと交わることができた。何よりも高齢の自分が人の役に立てることに喜びを感じていたという。

 アイリーンさんは100歳を超えても「おばあちゃんスタンド」を続けていたが、2018年に死去した。祖母の死を一区切りとして、マシューさんは「おばあちゃんスタンド」をたたんだ。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を経てニューヨークの生活環境は悪化した。経済の混乱からニューヨーク市民の生活への圧力は一段と強まり、ストレスを抱える人々が増えた。ニューヨークの変化を目の当たりにしたマシューさんは2024年秋に「おばあちゃんスタンド」を復活させることを決めた。

 現在では30人のおばあちゃんが手伝ってくれている。「おばあちゃんスタンド」が出没する場所はマシューさんが気ままに決めるが、ソーシャルメディアでその日の「出店」のおおまかな場所は発信しているため、おばあちゃんと話をしたいニューヨーカーが続々とやってくるのである。

低めの声で優しく向き合う リスナーと共に泣き、笑う