本籍名と違うことで生じた、システム上のトラブルは数知れず……
編集部:旧姓、新姓、使い分けていたことで困ったことはありますか?
さおたん:以前、仕事用の航空券を購入した時のこと。本人確認で電話があった時に「平本ですが」って電話に出ると「え? 神田さんではないですか?」とトラブルになったことがありました。
編集部:航空会社はテロ対策等ですごく厳しいですからね……
さおたん:私としては、旧姓を使い続けることを大切にしていた。そんな中、葛藤もありながら新姓に変えた時だったので、まだこんなことが付きまとって来るのかって! 向こうもビジネスですが、社会のシステムに乗れていない=拒絶された気分でした。そこに多様性というか、そういう人への対応策がなされていない。結局、会社の代表である夫が、電話口に出て解決したのですけど。でもそれって「私では解決できません」ってことですよね。世間にまだまだ浸透していないと、やっぱりつまらない思いをさせられます。
有子さん:そう言うトラブルがあるんですね。私も認識しておこう……
さおたん:あと、法人のクレジットカードを作る時に「(仕事用なので)旧姓で作りたい」と色々カード会社に問い合わせたら、アメックスだけがビジネスネームでも作らせてくれました。無事、旧姓で法人カードが作れたら、今度、会社用の携帯を契約しようと手続きで「契約名義とクレジットカードの名義が違うから使えない」って! ずーっと付きまとってくるんです。
怜子さん:まだ、会社によって対応がマチマチってことですよね。でも、そこって企業メッセージとして捉えられますよね。私の場合、会社の代表になった時に、個人を証明する時や印鑑を押す時に身分証明が必要になりましたが、商業登記も2015年から旧姓併記ができる様になった(法務局HP)ので、今では困ることはありません。会社の登記は絶対、併記しておいたほうがいい。パスポートも今年から旧姓併記できるようになりましたから早く書き換えたいです(外務省HP)。
さおたん:あ、そうそう。一つだけいい話がありました。以前、総務省の「異能vation」に採択され3Dプリンタの研究をした時のこと。旧姓で続けていたので、新姓で出されちゃうと研究が繋がらなくなっちゃうので、旧姓での発表をお願いしたら柔軟に対応してくれました。が、苦肉の策で本来、平本で入るはずの“は行”のところに”神田沙織”と入っていました(苦笑)
編集部:少しずつ変化はしているけれども、まだまだ追いついていない様子ですね。いろんなところでみんなが困っているのでしょうね。
名前=信用、名前が変わることで途切れてしまう自分の履歴
編集部:システム上の手続き以外でも困ったことはありましたか?
有子さん:仕事につながる場面では、名前が変わっていることが阻害の要因になる時があります。「隈有子(くまゆうこ)さん知ってる?」「誰それ?」となると困るのです。知っている名前=信頼につながるので。
編集部:先ほどのさおたんの異能vationの話もそうですが、研究職の方は論文発表の時、名前が変わることで致命傷になる、という話題はよく聞きます。研究職でなくても、過去の仕事が途切れるのは困りますね。
さおたん:私も以前、法的な場にでた時にありました。私の仕事上の実績を証明する時に「(私の活動を新姓で)周囲にヒアリングしたけれども、その業界では知られていません」みたいに言われて。私が旧姓で活動していたのを、あえて弱点として利用されたのです。
編集部:えー! それはひどい!
さおたん:本当に頭が沸騰するぐらい憤りを感じました。そういう風に弁護士がついてくるんだって。結果的には私たちに有利な結果にはなりましたが、このことで別に裁判起こしたいと思ったぐらい、すごいハラスメントだった。
編集部:確かに。男性には起こり得ないこと。
怜子さん:そこまで大きな話ではないですが、途切れると言えば、保険証は戸籍名に変わるじゃないですか。そうすると、これまでの健康診断の履歴が途切れるんです。過去のデータを見たいと思っても、カルテがない。
さおたん:それも途切れるの? それこそマイナンバーでしょ?!
怜子さん:ですよね。年金手帳も名前を変えないといけないし…… それにしても情報やアナウンスがなさすぎる……
編集部:そうですよね。早く紐付けの整理をしてほしい。ポイントより先に…… ちなみに住民票やマイナンバーも平成31年より旧姓併記が可能になっているので、旧姓証明に使えるようになっています。(総務省HP)
怜子さん:会社の登記や研究職の論文もそうですが”女性”という前提が、昔はなかったのでしょうね。我々は今、実際に体験しているからわかることですが、もっと情報として発信されるべき。
さおたん:最近お会いする人にはミドルネーム的に旧姓を伝えています。名前や自分の姓をどう名乗るか、考えるきっかけにもなればと。
有子さん:旧姓に戻した経緯を友人話した時に「名前のことを他人に言われること自体、イラっとしない?」って言われて。そっか…… 名前に対する考え方、捉え方って様々ね、と思いました。夫婦別姓じゃないからこういう意見が出るんだなと思って。さおたん、私達は二つの名前を持っていきましょう!
編集部:名前を使い分けるって良いと思います。後編に続きます!
自分のアイデンティティを表明している名前。そこに制度やシステム、人々の認知が適応できていないが故、生じる小さな障壁がたくさんあるんだなぁと、改めて思い知らされました。それにしても、それぞれの名前についての考え方、三者三様あってどれも興味深いものでした。自分の姓にしっくりきていない人、あまり考えてこなかった人、これから姓が変わるかもしれない人…… 今一度、姓について考えるきっかけになれば幸いです。後編も白熱したトークが続きます。お楽しみに!
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