※1「心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究」(研究代表者:国立精神・神経センター 精神保健研究所 加我牧子)より
◆自傷行為を過小評価してはならない


「病気を“大義名分”としていますが、医療の現場で『疾病利得』という考え方があります。これは病気や疾病によって患者さんが得られる、心理的、社会的、経済的なメリットのこと。例えば、うつ病と診断されることで会社に行くというその人にとってつらいことを避けることができますよね。精神科医は、『この人にとって、病気であるメリットは何だろう』といったことも考えながら、慎重に治療方針を決定していきます。
しかし、それは身体科の医師、精神科医や、臨床心理士、公認心理師などの専門家が正しく判断するべきことです。子どもはストレスが腹痛や吐き気、頭痛などの身体の症状となって現れやすいのです。たとえ器質的な異常(病院の検査などで確かめられるような異常)がなかったとしても、実際に痛みを感じ、苦しんでいる子どもがいるのです。
また、10代のときにリストカットなどの自傷行為を一度でもしたことのある人は、したことがない人に比べて、10年以内に自殺によって死亡するリスクが何百倍も高くなるというデータ(※2)もあります。『試しているだけだから心配いらない。死ぬことはない』と精神科医は絶対に言いません。むしろ、自殺リスクが高いことを伝えておく必要のある危険因子なのです。このような知識がどこまであるのか、非常に心配な部分です」