公的年金以外に年金の積み立てをしようと思った時、まず頭に浮かぶのは「個人年金保険」ではないだろうか。個人年金保険にはさまざまな種類があり、選び方によって受け取る年金の形は大きく異なる。私的年金には個人年金保険以外にもいくつかあるので、「個人年金にはとりあえず入っておくもの」という考えはやめて、賢い選び方や活用方法をおさえておきたい。

個人年金保険とは

厚生労働省が発表した2017年度の年金額によると、標準的な夫婦二人世帯の年金受給額は月額22万1,277円とのこと。これは基礎年金と厚生年金を合わせた金額だ。年収にして265万円ほどになる。標準世帯とは、夫の現役時代の平均月収が42.8万円で妻が専業主婦の家庭のことだ。

老後は年金だけでは赤字の世帯がほとんどで、多くが貯蓄の取り崩しによって生計を立てている。そのため、公的年金を補う存在としての私的年金は不可欠と言われている。個人年金保険はそのための手段のひとつだ。

個人年金保険は、保険料の払込期間(一般的には60歳まで)に保険料を納めることで、契約時に定めた年齢に達した時点から一定期間または一生涯にわたって年金が受け取れる貯蓄型の保険である。万が一払込期間中に保険をかけられている人(=年金受取人)が亡くなった場合、払い済みの保険料は遺族に死亡給付金として支払われる。

個人年金の種類とそれぞれの特徴

個人年金保険は年金の受け取り期間によって「確定年金」「有期年金」「終身年金」の3つに分けることができる。また、契約時に年金額が確定している「定額年金」と、運用や為替次第で年金額が変わる「変額年金」に分けることも可能だ。

確定年金 生死に関わらず受け取ることができる

被保険者の生死にかかわらず、一定期間年金を受け取ることができる。死亡した場合は遺族に支給される。受け取り期間を60歳からの10年とした確定年金保険が最も一般的である。退職から公的年金支給年齢までのつなぎとして活用する人が多い。商品ラインアップも豊富だ。

終身年金 生存している限りは一生涯受け取ることができる

被保険者が生存している限り、一生涯年金を受け取れる。保険料は確定年金より高めだが、長生きするほどコストパフォーマンスが良い。逆に早く亡くなると元本割れする恐れも。年金受取人が死亡すると同時に支払いは終了し、遺族に年金や死亡保険金が支払われることはない。

有期年金 生存している限り、一定期間受け取ることができる

被保険者が生存している限り、10年または15年といった一定期間年金を受け取れる。満額受け取れば年金額は確定年金よりも多くなるが、早く亡くなると元本割れもありうる。そのため有期年金では支給開始からしばらくは遺族に年金を支払う保証期間付きのものが一般的だ。保証期間が付かない有期年金が個人年金保険の中で最も保険料が安い。

変額個人年金 保険会社の運用次第で額が変わる

前述の3商品は寿命によって受取額の合計は変動するものの、年金額はあらかじめ確定している。それに対し、保険会社の運用実績によって年金額が変わるのが「変額個人年金保険」だ。運用がうまくいけば支払った保険料を上回る年金を受け取れるが、運用が振るわない場合は元本割れすることもある。変額保険は株や投資信託など価格変動が大きい試算で運用されるため、株高と低金利が続くと人気が高まると言われているが、2016年時点では変額保険の契約件数は定額の1割程度にとどまっている。

外貨建て年金 外貨で運用される変額年金

変額個人年金のうち、積み立て金の運用をドルやユーロなどの外貨でおこなうのが「外貨建て個人年金保険」だ。運用益や為替差益から高い利回りが期待される反面、為替レート次第では大きな損失を被ることもある。円安やインフレに備えられることがメリットだが、通常の個人年金保険よりも為替手数料や解約手数料などコストが高いことに注意。

個人年金保険のメリット・デメリット

個人年金保険の大きなメリットに、「貯蓄が苦手な人でも積み立てられる」がある。個人年金の保険料は指定した口座から自動的に引き落とされるので、余った分を貯蓄に回す方法より計画的で強制力がある。預貯金や定期と違って解約のハードルが高いのも継続できる要素のひとつだ。

また、「個人年金保険料控除」が受けられるのもメリットだ。個人年金のための保険料を所得税と住民税の課税対象となる所得から差し引くことで節税につながる。しかも生命保険料控除とは別枠である。保険料払込期間が10年以上であることが条件なので、確定年金では5年ではなく10年を選択する人が多い。

一方、「途中解約すると元本割れする」という大きなデメリットもある。個人年金保険は途中で解約することは可能だが、解約返戻金はそれまでに支払った保険料の総額よりも少なくなる。特に加入してから3年以内は半分以下になることも。個人年金保険は早く加入するほど得なので、払込期間が20年や30年になることも普通だが、その間に突如現金が必要になる可能性も十分に考えられる。長期間動かせないお金であることに注意したい。

さらに、定額型の個人年金保険は「インフレに弱い」という特徴がある。インフレとは物価が上昇することで、モノの値段が1.2倍になったら手持ちのお金も1.2倍にならないと割に合わないが、定額保険は固定金利なので物価がどんなに上がろうが受け取る金利は変わらない。変動金利であれば金利が上がるためインフレにも対応できる。