戦後2番目の景気も2019年は岐路に

こうした家計部門の低迷はGDPを所得(分配)面から見ても分かる。実際、国民所得に占める雇用者報酬の比率を示す労働分配率は2008年度の72.1%から2016年度に68.9%に下がっており、企業が儲けを家計に分配する度合いが低下していることがわかる。

この背景には、デフレマインドが依然として蔓延していることと新興国の台頭を契機とした経済のグローバル化がある。つまり、①過去20年以上のデフレのトラウマで企業経営者が賃上げに臆病になっている、②企業の生産拠点や販売市場の国際化、③株主構成の国際化、といった要因によって企業がグローバル化によって景気回復を主導しても賃金が伸び悩み、政府が財政健全化を急ぐことから内需が盛り上がらない構造になっている。経済のグローバル化は止まらないため、今後も政府が財政健全化を急ぐことが続けば、企業主導で景気が拡大しても家計が低迷する構造は続く可能性が高いだろう。

さらに、一国の経済成長を見る場合、前述の名目GDPではなく、物価変動や性能向上分を調整した実質GDPで見るのが一般的である。

1960年代の日本経済は高度成長期と呼ばれ、平均して10%を上回る成長を遂げた。そしてこの時期は、2000年代以降の中国のように豊富な家計貯蓄を企業が借り入れて積極的に設備投資を行っていた。また、農村から都市部への人口移動によって第一次から第二次産業へ労働力がシフトし、製鉄や石油化学などの重化学工業にけん引されて経済が急成長した。

しかし、その後は二度の石油危機で1970年代が5.0%、1980年代が4.4%と大きく減速した。背景には、原油高でけん引役だった重化学工業が打撃を受けたことの他、都市部への人口移動が一段落したこと、先進国への技術面のキャッチアップ余地が限られてきたこともあり設備投資の伸びが大きく鈍化したことがある。

ただ、1980年代後半にはバブル経済により一時的に成長率が高まった。株価や地価の上昇による資産効果を背景に民間需要が大きく拡大したためである。しかし、経済の実態からかけ離れた資産価格の上昇は長続きせず、バブル経済が崩壊した1990年代以降は日本経済が設備、雇用、債務の「三つの過剰」の処理に苦しみ、日本経済の成長率は平均1.6%に落ち込んだ。

その後、2000年代の経済成長率は平均0.5%まで落ち込んだ後、2010年代以降の成長率は2017年度までの平均で1.4%と改善した。背景には、リーマンショックからの持ち直しによる海外経済の好調に支えられたことや、アベノミクスの始動により過度な円高・株安が是正され、ビジネス環境の改善が進んだことがある。

しかし、足元の日本経済は、景気回復が9年以上続いている米国の金融正常化の影響もあり、2012年末から始まった戦後二番目の景気回復が終盤を迎えつつある可能性がある。こうしたことから、足元の日本経済は、特に東京五輪特需のピークアウトと消費税率引き上げが重なるかもしれない2019年10月以降は景気回復が持続できるかの重要な局面に近づいているかもしれない。

文・永濱利廣(第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト)/ZUU online

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