60代半ばの夫は、長く単身赴任を続けていたが、いよいよ再雇用先の会社も定年を迎えた。

「毎日夫が家にいるという状況にまだ慣れなくて、息が詰まりそうです(苦笑)。私も還暦を過ぎて、パート勤めをそろそろ辞めようかなと思っていましたが、毎日夫と二人で顔を突き合わせているのも息苦しいので、もうしばらく勤めを続けようと思い直したところです」

 そんな茂木さんは、自分の仕事が休みになる年末年始を考えると憂鬱だった。夫は朝から晩までテレビを見ながら、飲み食いするばかりだろう。

 10年ほど前までは、家族で東北にある夫の実家に帰省していたが、義父が亡くなり、義母と独身の義妹二人の生活になると、家族で帰省するのも申し訳なくなり、夫だけが帰省するようになっていた。さらにコロナ禍になってからは、ウイルスを持ち込まないよう夫も帰省を遠慮していたのだ。

「今年はコロナ明けということもあり、また夫だけ帰省することにしたと言うんです」

 茂木さんは、夫の不在を喜んでいるのかと思いきや、複雑な表情なのにはワケがあった。

夫だけが実家に帰省することに……義母は8年前に認知症を発症

 義母は8年ほど前に認知症を発症したのに加えて、しばしば体調を壊し入院することも増えていた。夫の妹は長年勤めていた会社を辞めて、在宅で介護することにした。定年にはまだ間があったが、独身ということもあり、ずっと支えてくれていた母を自分が看てやりたいという気持ちが強かったようだ。

「そのころまでは、義母もデイサービスに通っていたし、介護もそう大変ではなかったようなのですが、コロナ禍中に義母が入院して、義妹が一気に追い込まれたのです」

 義母の入院で、義妹の介護の負担が減る――と安心したのは、外野にいる人間だったからかもしれない。義妹は、入院した義母に面会するどころか、どんな様子なのかも一切わからず気をもむばかりだった。

 コロナ禍で、病院の大変さは頭では理解できていても、半年以上まったく会えなくなると話は別だ。介護施設なら、まだオンライン面会やガラス越しの面会ができたかもしれなかったが、病院ではそうした対応は望めなかった。義妹は心労ですっかり憔悴してしまったという。