主人公が現実世界と非現実世界を自在に行き来するというパターンは、今ではすっかりファンタジーものの主流となっています。呪術学校を舞台にした学園ホラーファンタジー『呪術廻戦』、主人公が仲間と共闘して家族を殺した鬼舞辻無惨と戦うダークファンタジー『鬼滅の刃』など、日本の人気漫画の多くも『ハリー・ポッター』から影響を受けています。

 映画版のシリーズ化が始まった2000年代はCG技術が普及し、ファンタジー作品が企画されやすい土壌が整っていました。架空のスポーツ「クィディッチ」の空中戦などは、CG技術がなければ不可能な描写だったはずです。

 また、子どもたちだけでなく、大人も『ハリー・ポッター』の世界に引き込まれたのは、昔ながらの寄宿学校が舞台になっていたからだと言われています。伝統的な文化を愛する英国人にとって、寄宿学校でスネイプ先生のような嫌味な教員にめげることなくハリーたちが青春をエンジョイする姿は、ノスタルジーを掻き立てられるものがあったようです。

 日本でも高度経済成長期の変わりゆく東京の様子をCGで再現した山崎貴監督の『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)が大ヒットして、シリーズ化されました。CG技術と人間の持つ郷愁という感情は、意外と親和性が高いのかもしれません。

 批判する声も少なからずありました。キリスト教原理主義者の一部は『ハリー・ポッター』が魔法使いや魔術を肯定的に描いていると、図書館での貸し出しを制限させるなどの禁書運動を起こしています。米国のニューメキシコ州の教会では、焚書イベントも行われたそうです。頭のカチカチな人は、どの時代のどの国にもいるようです。

対決を前に、「恋愛」で盛り上がるハリーたち

 ハリー(ダニエル・ラドクリフ)、ロン(ルパート・グリント)、ハーマイオニー(エマ・ワトソン)がすっかり大きくなった『謎のプリンス』はこんなストーリーです。ハリーたちは魔法学校の6年生に。思春期真っただ中の16歳です。ハリーたちの日常生活は「恋愛」が大きなウエイトを占めています。魔法は使えても、人の心を操ることは魔法学校の生徒でも簡単ではないようです。ハリーはロンの妹・ジニー(ボニー・ライト)と急接近。ロンもハーマイオニーといいムードになります。