106万円の壁「撤廃」が注目されていますが、私たちの「老後」や「家計」にどのような影響を与えるのでしょうか? 年金制度の改正の狙いと、安心して暮らすためのヒントを紹介します。
現在話題になっている「106万円の壁撤廃」は、所得代替率を引き上げることが目的になっています。 要するに、現役世代が老後に年金暮らしになっても、現役の頃と比べてそれほど大きく収入が減らないようにするための、ひとつの方策です。   国の政策は、「年金制度改正に向けた動き」と解釈すれば分かりやすいですが、個別具体的に出てくる政策が、年金制度の改正とどのようにつながっているかは、因果関係が見えにくいかもしれません。   そこで今回は、老後の家計と絡めて、国の用意する政策と年金制度改正がどのように関わっているかについて探っていきます。

▼扶養内で働いてるけど、労働時間が「週20時間」を越えてしまった!「社会保険」に加入する必要はある?

所得代替率って何?

まず、所得代替率とは何かを説明します。
 
簡単にいうと、現役男子の平均手取り額に対して、もらえる年金がどれぐらいかを示す指標のことです。
モデル世帯は下記のように夫婦2人の専業主婦(主夫)世帯ですが、共働き世帯が増えている現在も、このような世帯モデルを軸に年金制度は組み立てられています。
 

筆者作成
 
2024年の7月に厚生労働省が公表した「令和6年 財政検証結果の概要」によると、2024年度の所得代替率は61.2%となっています。金額の内訳を見ると、夫婦2人の基礎年金が13万4000円、夫の厚生年金が9万2000円で、もらえる年金の合計が22万6000円、現役男子の平均手取り収入額が37万円です。
要は2024年度の場合、現役世代の手取りの約6割が高齢者の年金として支給されているということです。
 

現役世代の所得代替率を上げるために106万円の壁が撤廃される

厚生労働省は「過去30年投影ケース(今後、過去30年のような経済情勢で推移した場合)」における試算で、年金制度について何も改正をしない(現行制度をそのまま続ける)とすると、2057年度には所得代替率が50.4%に低下すると予測しています。
 
これは、現役世代のもらえる年金が将来減る可能性があることを示唆しています。政府はこれを改善するためにさまざまな策を用いて、所得代替率の低下を抑制、もしくは、向上させようとしています。
 
この理屈で考えれば、106万円の壁撤廃の目的はおのずと見えてきます。パート主婦(主夫)のうち厚生年金に加入していない人にも新たに加入してもらうことで、現役世代の所得代替率を向上させることが狙いです。
 
これを老後の生活に絡めて考えてみましょう。パート主婦(主夫)のうち厚生年金に加入していない人が、新たに加入するわけですから、その人は将来もらえる年金が増え、老後の生活の足しになります。
 

年金で足りない部分に対し、どのような政策的後押しがあるのか