この映画に登場するのは20代の若きドナルド・トランプ。不動産業を営む父の会社が訴えられ、ピンチに陥った彼は、高級クラブで悪名高きやり手弁護士、ロイ・コーンと出会う。
その時点でのトランプは、飲めない酒をコーンに飲まされて困惑するなど、まだまだナイーブなお坊ちゃんという雰囲気。そのトランプが、コーンから大物になるための教え〈勝つための3つのルール〉を教わり、やがてコーンをもしのぐ傲慢な大物に変貌していく。
そのルールとは、
ルール1 攻撃、攻撃、攻撃
ルール2 非を絶対に認めるな
ルール3 勝利を主張し続けろ
の3つ。
映画の中でコーンとトランプの師弟関係はやがて終わりを迎えるが、トランプが今もこのルールを守り続けていることに、観客はすぐに気づくだろう。どんなに間違っていても絶対に非を認めない、謝らない。絶対的な自信で主張しているうちに、やがて世界が彼に騙されていく――。すでに我々は完全にトランプの手中にあるのかもしれない。
映画の中で、トランプが最初の妻、イヴァナと結婚する時、コーンから結婚するなら結婚相手と契約書を交わさないとダメだと言われ、契約に臨むトランプとイヴァナ。分厚い契約書にイヴァナは不機嫌になり、「離婚の際にはあげたプレゼントは返却すること」という条項を見て怒り出すシーンがある。
結婚相手すら信用しきれず、契約書で縛ろうとする、そんなトランプの生き様がコーンの教えに基づいたものだとしたら、その生き方はトランプの政治にどんな影響をもたらしているのだろうかと考えてしまう。いや、もしかしたら常に契約に基づいて行動するというのは、政治家としてはむしろまともなのか……?
よくわからなくなってくる一方で、この映画のトランプは、どこか憎みきれない人間くささもあるのも事実だ。トランプの本質が強大な権力を持った子どものようなものだったら、破壊をもたらす悪人だった場合よりはまだましである。とにかく、来る4年間で、これ以上の大きな戦争が起こらないことを祈るばかりだ。