◆「自分」を表現するむずかしさ
かく言う私は、自分で自分を明確に「トランスジェンダー」と表現したことがない。
カタカナで自分を表現しろと言われれば、男性でも女性でもない「ノンバイナリー」や、自分のアイデンティティがわからない・明言したくない「クエスチョニング」を名乗ってきた。
人から「トランスジェンダーの佐倉さん」と断言されると、なんだかギョッとしてしまう。
トランスジェンダー男性というと、女性が好きで、女性と結婚できる人たちを指す気がして、男性しか好きになれない自分とは別物に思える。
うまく名乗ることができない私だから、曖昧さを残す本作にある種の居心地のよさを感じるのかもしれない。
いずれにせよ「怪物」で性的マイノリティに興味を持った方には、『エゴイスト』と『老ナルキソス』もおすすめしたい。