繰下げ受給する方は、ほんの一部にとどまっています。繰り下げて受給額が増えても、税・社会保険料や医療・介護保険の自己負担割合も増えることとあわせ、もし早死にしたらもらい損ねる、といった心配の声をよく聞きます。では、繰り下げるとしたら、どんな理由があるのでしょうか?
表3は、繰下げ受給を選択する場合の基準を調査したアンケート結果です。全国の60歳以上の、まだ年金を受け取っていない男女に聞いたものです(※5)。
「受給開始年齢を遅らせるつもりはない」の選択肢がなかった2020年は、「健康状態」が断然トップで「年金給付額の増額幅」が続きましたが、2023年では「遅らせるつもりはない」の存在感を無視できません。「年金給付額の増額幅」が増えたのは、2022年度から繰下げが75歳までできるようになった影響がありそうです。
これらから、繰下げを選択する条件は、「長生きして年金増額の十分な効果を享受できるなら」と考えている方が多いといえます。しかし、こればかりは誰にも分かりません。繰下げが低調なのは、やはり「もらい損ね」を避ける気持ちが、大きな理由のひとつなのでしょう。そして、3番目、4番目の回答に続くように、65歳以降の収入が十分見込めなければ、そこから公的年金に頼らざるをえないということです。
受給開始年齢による手取り額の比較
繰上げ・繰下げを選択した場合、税・社会保険料負担を除いた、いわゆる「手取り額」がどの程度なのかを表4で比較してみました。
モデル年金額による表1のデータを用いて、60歳、65歳、70歳、75歳からそれぞれ受給開始した場合の年収と、税金・社会保険料を除いた手取り額の割合です。
なお、単身世帯で収入は公的年金のみとし、基礎控除以外の所得控除・税額控除は考慮せず、住民税・保険料の計算は川崎市の定める税率・料率等を用いています。
年金額がもっと少ない場合は、住民税が非課税になる、あるいは国民健康保険料が軽減されるなど、手取り割合は繰上げするほど高くなる傾向があります。また、扶養家族がいる場合や同世帯の家族の収入額により、税額や介護保険料等は変動します。
自分のケースに合わせてシミュレーションすることは、いつ受給開始するかの大きな判断材料となるでしょう。
この他、繰上げ・繰下げすると他の年金の受給権利を失う場合があることや、給与収入があると繰り下げた年金の一部が増額されない可能性(在職老齢年金)の存在など、検討すべき実にさまざまな取り扱いがあります。
後から後悔しないよう、ぜひご自分のケースで確認しておきましょう。