◆日本では珍しい制作手法で成功した作品
制作方法も攻めている。2024年10月から放送されたドラマ『3000万』では、複数の脚本家が脚本開発チームとして分業して制作を進めるプロジェクト「WDR(Writers' Development Room)」を実施。互いのアイデアや得意分野をかけ合わせることで完成度の高い脚本を開発する手法で、海外ドラマでは定番化しているものの、日本ではあまりなじみがない。
WDRが功を奏したのか、上質なクライムサスペンスに仕上がっている。恐怖心を刺激されるハラハラ展開がメインではあるが、主人公たちが選択を間違え続ける様子はどこか“喜劇的”。怖さの中にも笑みがこぼれてしまう緻密なストーリーだった。
◆攻めのキャスティングでヒットドラマに
表現やテーマ、制作方法など挑戦的な姿勢を近年のNHKのドラマからは感じられる中、攻めのキャスティングも目立つ。
2024年のヒットドラマ『宙(そら)わたる教室』では、主人公の教師は窪田正孝が務めたが、主要キャストである生徒の小林虎之介や伊東蒼らはドラマ通からは知られているものの、一般的な知名度が高い役者ではない。嫌な言い方をすれば、キラキラしたキャスト陣とは言い難い。しかし、いずれの役者もまさにハマり役と言えるほどの好演を見せ、ドラマの魅力を最大限に引き上げていた。
NHKは視聴率やスポンサーの意向などに、民放ドラマほど気を使う必要がない。だからこそ、攻めた、もとい適した座組にできることもNHKの強みである。その強みが近年顕著に見られ、結果的により良い作品の連発につながっているように思う。
◆“何も起こらないドラマ”が話題に
NHK BS、NHK BSプレミアム4Kではあるが、2024年9月から放送された『団地のふたり』も別の意味での攻めっ気を感じた。本作は団地で生活する野枝(小泉今日子)と奈津子(小林聡美)をメインとしたホームドラマ。殺人も復讐も不倫も心理戦もなく、登場人物による日常の延長線上にあるドタバタが繰り広げられるのみ。考察ブームの昨今、一切“SNS映え”しない内容ではあるが、その緩やかな雰囲気が多くの視聴者を虜にした。