「ギャル魂」のパワーを表現するために、若者の夢を叩き潰す。叩き潰した上に、「医者に行かない」という非常識で愚かな選択を繰り返させる。残酷な作劇です。

 そして、結が優しくない理由です。

 本来、結は「人助け」の人なので、翔也のことも助けたかったはずなんです。結が「ギャル魂」を発揮して自力で翔也を回復させていれば、まだ結婚に至るプロセスにも説得力があったかもしれない。

 しかし、結に翔也を助けることはできません。なぜなら、結には「ギャル魂」が宿っていないからです。

 専門学校時代、調理実習の献立をママ(麻生久美子)と2人で考えていたときに、ハギャレンから電話がかかってきたことがありました。その電話によって結は一瞬だけ「ギャル魂」を取り戻し、献立を作り上げた。

 エース澤田に就職を斡旋され、それは「ズルいのではないか」と悩んでいたこともありました。その際にはママがハギャレンを日本各地から呼び寄せ、カラオケボックスでルーリー(みりちゃむ)が結を諭しています。このルーリーの言葉によって、結は一瞬だけ「ギャル魂」を取り戻し、就職を決めた。

 結は「ギャル魂」を抱き続けることができません。なぜなら、ドラマの主人公として悩み続けなければいけないからです。確固たる哲学を持った人間は悩みません。就職面接に落ちても、彼氏の夢が潰えても、「どうすればいいかわからない」という状況になりえない。

 アユやルーリーが持っている「ギャル魂」という哲学と、その哲学から導き出される物語的な正解によって、結という人は動かされています。その「ギャル魂」が結の外部にあるからこそ、結は何度も悩むことができるし、悩みながら解決に至るというドラマを演じることができる。

 その他力本願なドラマツルギーと引き換えに、結という人物の心が空洞化するというジレンマが発生している。だから恋人への思いやりもないし、好きという気持ちに体重が乗らない。