カリスマである松本人志がいなかったこともまた、他の審査員たちに批判の目が向かなかった一因だという。
「M-1における松本さんの存在が大きすぎたがゆえに、“松本さんが何点をつけたか”という点に注目が集まっていたのがこれまでの大会です。さらにいえば、松本さん以外の審査員は“松本さんの採点とどれくらい近かったか”で評価されてしまう現実もありました。裏を返せば、松本さんの評価と全く異なる評価をしたら、その審査員の評価は“間違っている”と言われてしまう状況があったわけです。
しかし、今回は審査員が松本さんと比べられることがなかった。ネタ後“松本さんがどんなコメントをするか”で、現場の空気が変わることもありましたが、それもない。松本さんという絶対的な評価軸がいなかったことで、視聴者の審査員に対する目がフラットなものとなったのは間違いないと思います」(浜松氏)
さらに、松本の審査における“若手芸人とのズレ”を指摘する声もある。前出のお笑い事務所関係者はこう話す。
「漫才は年々加速度的に進化していて、若い芸人のネタにベテラン勢がついていけないこともあります。そういう事情もあって、師匠クラスの芸人が審査員から勇退していく現実がある。そうはいっても松本さんは別格とされていたわけですが、ここ数年は若い世代のネタに対する見方に多少のズレが生じることもあったのは事実です。
たとえば、2023年の大会でダンビラムーチョの歌ネタに対して松本さんは『1曲目のツッコミまでが長かった』とコメントしたのですが、あのネタはツッコミまでが長い点こそが面白いポイントであり、劇場でもそこで笑いが起きていたもの。お笑いファンからしてみれば、むしろ“あの面白さを松本さんは理解できていないのか”という風にも見えました。
同じく2023年のくらげのネタに対して、松本さんは『ミルクボーイに似ている』といったコメントをしています。ボケの切り口としてはまったく異なるのに、表層だけ見てミルクボーイに近いと評した。“笑いのカリスマ”である松本さんが、若手のネタを理解できていないことがあらわになってきていた。そう考えると、24年のM-1で松本さんが抜けて、その下の世代の芸人が審査員を務めたのは大正解だったと思いますね」