ーーヤクザであることは、他の受刑者との人間関係にも影響を及ぼす?

B氏 シンプルに当たり前やがな。まず工場に配役されたら雑居房に放り込まれる。1日でも先に工場へ配役された懲役が先輩や。雑居房には雑居房の数だけルールがある。だいたい末席はどこでも便所掃除の担当やねんけど、まあ現役のヤクザの場合は免除やわな。考えてみいや。たかだかカタギの犯罪者が代紋もってる現役に対して、「便所掃除やってくんなはれ」なんて言えるか。大概、我の強い現役のヤクザが入った舎房は、その日にルールが変わりよる。

極道としての「塀の中のメンツ」

ーーでは、中ではヤクザのほうが務めやすかったり、生活しやすかったりする?

B氏 う~ん。よし悪しちゃうか。1日でも早くシャバに帰りたいのは世の常やろう。その点で考えれば、いくら他の懲役が多少遠慮してくれるからゆうて、ハナからこちらは満期(仮釈放がない)やからな。とにかく残刑を務め上げなシャバに帰られへん。それに、極道として卑しいこともできへんやろう。

ーー卑しいこととはどういう意味?

B氏 口(食べ物)やがな。中では、退屈やからみんな博打すんねん。テレビの番組で最初に登場すんのは、男か女かとかな。パンに塗りもん(ジャムやマーガリンなど)賭けたり、祝日に配られるホヤキ(お菓子)賭けたりな。シャバで銭賭けるよりも盛り上がるがな。特に正月や。正月は、賭けるもんがようさん出るがな。ホヤキもそうやし、三が日は飯もええしな。それをヤクザがや、他のポン中や盗っ人と同じようにヨダレ垂らして、他人のもんを食えるか。ましてや、シャバで立派な仕事(組の抗争事件など)してきてるもんが、「アイツは中で口が卑しかった」なんて言われてみいや。洒落ならんやろう。

 どの房でも12月に入ったら担当にバレんように博打が盛んになる。負けが込んで正月はホヤキどころかメシもないゆうもんが出るくらいや。それにたまりかねて自爆(作業拒否)する懲役も出る。場をしらけさせたらあかんから、博打にはもちろんワシら現役も付き合う。でもな、博打で勝ってももらわへんのや。「かまへんからいけ、いけ」と。何やったら、ほんまはヨダレ垂らすほど食いたいのに、自分のホヤキまで「これもいかんかい~」って、若い懲役やまだ刑期が長い懲役にやったんのも仁義みたいなとこがあるわな。