美羽が冬月の子「かもしれない」と思った第一回目、「私は悪女になる」と言ったのも、その後の展開を見ると少し違和感がある。彼女は悪女というより、ひとりですべてを背負い込む女性だったからだ。

 夫のひどいモラハラに耐えていた時期も、専業主婦だから、母の入院費を払ってもらっているからと我慢せざるを得ないわけで、そういう状況があまりにせつない。

 そんなときに逃げるように冬月と1度だけ関係をもってしまったのだが、娘が産まれたら夫が激変した。このままこの生活を続けたいと願う美羽は、死んだと思った冬月が生きて帰ってきていることを知っても連絡をとろうとしなかった。彼女の冬月への思いは、単なる懐古だったのか新たに芽生えた愛情だったのかもわからない。つらいときにいつも冬月を「利用」してきたようにも見えてしまう。

木曜劇場『わたしの宝物』最終話より
 また、そもそも3人の関係を「引っかき回した張本人」の真琴(恒松祐里)に、なにかというと栞を託したり、心の内を少し語っていたりするのも、視聴者からは「わからん」という声が多数上がっていた。ドラマの便宜上、しかたがないのだろうが、人間としての一貫性がとれていない気もする不思議な女性だった。

◆「宏樹という人間」田中圭の演技に惹きつけられた

 最終回、冬月は栞の実父でありながら「部外者」だった。夫婦再構築の踏み台になってしまったのがある意味で気の毒なのだが、その結果、決別したはずの莉紗(さとうほなみ)と関係が修復できた。宏樹に以前、好きだと告白した真琴も、いつしか店で働いている男性に愛されていた。誰もがハッピーエンドで閉幕したのだ。

木曜劇場『わたしの宝物』最終話より
 喫茶店のマスターとして登場した浅岡(北村一輝)が、それぞれの登場人物の心情を説明したり視聴者の代弁をしたりと、なかなかの狂言回しではあったのだが、せっかく怪しい雰囲気をもっていたのに、物語との関わりが薄くて残念だという声も上がっていた。

 結局、終始、図抜けた演技を見せ続けた田中圭の圧勝だったのかもしれない。宏樹の冷たさ、葛藤、怒り、自分の感情を出せないつらさ、そして栞への愛情、さらには妻の美羽への赦し。台詞回し、声のトーン、表情、間合い、体の使い方に至るまで、すべてが「宏樹という人間」だった。すべてに無駄がないのに余裕はある。そんな演技に惹きつけられた。