改正案では、短時間労働者の条件のうち「従業員51人以上の事業所」と「所定内賃金が月額8万8000円以上」の撤廃が提案されています。改正案が採用されると、月収8万8000円未満の人も厚生年金保険の被保険者になり、手取りが減る可能性があるのです。
 
ただし改正案には、手取りの減少を補うための対策も盛り込まれています。厚生労働省によると、例えば、従業員と事業主が合意した場合に、従業員の保険料の負担割合を減らす(事業主の負担割合を増やす)時限措置などです。この措置が実施されれば、当面の負担額が通常よりも少なく済むこともあるかもしれません。
 
また、厚生年金保険の加入には、老後への備えが充実するメリットもあります。厚生労働省と日本年金機構が作成した「社会保険適用拡大ガイドブック」によると、年収120万円で厚生年金保険に30年間加入した場合、報酬比例部分の年金額が毎月1万4900円増えるそうです。
 
また、障害年金と遺族年金においても、支給額の上乗せや保障範囲の拡大などが適用されます。
 

賃金要件撤廃の狙いは「働き控えの減少」と「要件の整理」

賃金要件を撤廃する案が提出された背景には、おもに2つの要因があるようです。
 
1点目は、就業調整による働き控えです。月収を8万8000円未満におさえるため、就業時間を調整している人もいるでしょう。賃金要件を撤廃すれば、就業時間を短くする人は少なくなると考えられます。働き控えが減り、人手不足の緩和が期待されるのです。
 
2点目は、労働時間要件(週の所定労働時間が20時間以上)との兼ね合いです。最低賃金の引き上げにより、週に20時間以上働けば賃金要件を満たす地域が増えています。賃金要件の必要性が薄まっているため、撤廃しても問題ないという判断です。
 
ただし、週に20時間以上働いても賃金要件を満たさない地域もあることから、撤廃時期は最低賃金の動向を基に判断することが提案されています。
 

賃金要件が撤廃されれば、月収8万8000円未満の従業員の手取りが減少する可能性がある