だからといって、選曲を変えろと声をあげるのも、少し違う。そうした声によって状況を変えることが当たり前になってしまうと、議論の場が失われるからです。批判する側、される側、どちらも“臭いものには蓋(ふた)”というお手軽な対応になりがちなのですね。

星野源『地獄でなぜ悪い』ビクターエンタテインメント
星野源『地獄でなぜ悪い』ビクターエンタテインメント
 つまり、今回の一件で不足しているのは、NHKと星野源、両者による言葉なのではないでしょうか。NHKも星野源も、園子温監督の一件を知らないはずはありません。一般視聴者の私達よりも、はるかに事情を把握していることでしょう。

 だとすれば、そうしたスキャンダルへの世間の受け止めが十分想像できるなかで、それでもなぜ「地獄でなぜ悪い」を歌うのかということを言葉を尽くして説明したらいいのではないかと思うのです。

 ソングライター、アーティストとしていまの星野源において曲が持つ意味。また2024年の締めくくりに選んだ理由を、音楽的な価値、歌詞の伝えるメッセージ、弾き語りの演奏形態にした意図などを通して、説明する。

 そういう具体的な言葉がどちらからも聞こえてこないから、ゴシップ的な視点からしか批判を集めていないのだと思います。

◆山下達郎はジャニーズについて「ご縁とご恩」と表明

 筆者は山下達郎と旧ジャニーズ事務所のことを思い出しました。山下達郎は、自身のラジオ番組で「ご縁とご恩」と、自らの態度を表明しました。自らの創作の根底には切っても切れない絆があるのだと宣言したのです。

 この発言は、いまもなお議論のわかれるところです。しかしながら、山下達郎は、立場を明らかにしました。

山下達郎『SOFTLY (LP) 』ワーナーミュージック・ジャパン
山下達郎『SOFTLY (LP) 』ワーナーミュージック・ジャパン
 自身のインスタグラムでNHKからの熱烈なオファーで「地獄でなぜ悪い」に決まったことを明かし、「血が湧き上がるような感覚」だと興奮してみせた星野源も、同じ様な状況にあるのだと思います。それが少なからず問題を生じさせる可能性のある曲だとしても、彼のキャリアにとって、特別な作品であることが発言からうかがえるからです。