故人の預貯金がどうであったかを把握するのは、本人が的確な情報を残していないと、かなり手間がかかります。このようなケースでは、本人名義の預金通帳やキャッシュカードを探すことが第一です。もし自宅の金庫や金融機関の貸金庫の中に、こうした通帳などがあれば、かなりの預貯金額を把握できます。定期預金などの引き出しには、出生時からの戸籍謄本などが必要ですが、普通預金の引き出しには、さほど苦労はしません。相続人から見て、預貯金は最も配分しやすい財産になります。
もし通帳などが見つからない場合は、作業は少し大変になります。例えば、近隣の金融機関からの郵便物を探し、該当する金融機関に口座の有無を問い合わせます。かりに郵便物などがない場合は、少なくとも徒歩圏内の金融機関に事情を話し、念のため照会する必要があります。預金実績が確認できれば、相続財産になります。ただ来年春ころから、マイナンバーを活用した「預貯金口座管理制度」がスタートすれば、故人のマイナンバーを利用して預貯金の実態を把握可能になり、相続手続きの効率化に役立ちます。
株式や投資信託などの有価証券、あるいは生命保険などについては、証券会社から送られてくる取引報告書や配当金の支払通知、保険会社から送られてきた保険証券の存在をまず確認することです。とくに最近では、高齢者も証券取引でネット証券を利用している方が多くなっています。その場合は、紙媒体の書類が少なため、把握が困難になるかもしれません。ただし、有価証券、生命保険とも、業界団体が中心となり、加入者データの管理が進み、加入者の記録などの照会に対する対応策が進みつつあります。今後こうしたデータの提供が進めば、相続手続きが楽になることは間違いありません。
相続不動産の登記が義務に
自宅の土地などは容易に確認できますが、それ以外に不動産がどのくらいあるのかも把握しなければなりません。とくに親が亡くなる前に、所有する不動産について確認をしておけば問題はないのですが、それがないときは調べなければなりません。そのためには、まず故人宛てに役所から送られていた固定資産税の「納税通知書」を見つけることです。さらに市区町村が不動産の所有状況をまとめた「名寄せ帳」を閲覧することで、故人の不動産の所有状況を知ることができます。
今後は、このような不動産の所有状況を一括照会できる「所有不動産記録証明制度」も準備されています。2026年2月からスタートする予定ですが、これにより従来の手間が省け、法務省が登記簿の名義人ごとに所有不動産の情報を、一覧できるようになります。このシステムが稼働すれば、故人の所有する不動産の実態が容易に把握でき、手続きの効率化が進みます。相続人同士の話し合いも早期に開始できます。
不動産の相続に関しては、3年以内の「登記の義務化」が決まっています。これは所有者不明の土地や住宅が急増したことに対する国の対策の一環で、相続した不動産を登記はせずに、そのまま放置することはできなくなりました。居住しない住まいや利用しない田畑であっても、登記が必要で固定資産税も発生します。正当な理由がなく、3年以内に登記をしないと過料が課せられます。利用価値のない土地は相続放棄をして、現預金・有価証券だけを相続できません。3年以内の登記はしっかり覚えておきたいものです。
これまでの相続手続きは、戸籍謄本の取得をはじめ、非常に手間のかかる作業でした。最近では、データ化・デジタル化が進み、効率よく必要書類が取得できるようになりつつあります。相続手続きを必要とされている方には朗報です。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。