彼らは「最悪だ……」などと顔をしかめたりはしません。苦悩とは、未来がある者だけの特権なのです。幻獣幹部の中でも年長者の2人。もうやり直すことなどできないことはよくわかっています。うっすらと笑みを浮かべながら、懐から銃を取り出し、互いに銃口を向け合うのでした。警察が突入する寸前、2つの銃声が同時に鳴り響きます。

 青龍。

「兄貴に手ぇ出したらブッ殺す」そう言ってキイチの前に立ちはだかり、鳳凰に九頭竜を追わせます。

 青龍にとって、義兄弟である鳳凰だけが命を張る理由でした。

「こっから先は、ぜってぇ通さねえ」

 ご自慢のトゲトゲメリケンサックを拳に装着し、キイチと一進一退の肉弾戦を繰り広げますが、駆け付けた特殊部隊に何発もの銃弾を撃ち込まれ、血まみれのダンスを踊ることになりました。辞世の句はもちろん「兄貴……」の一言です。

 そうして幹部たちは自らの死ぬ理由を持って死んでいきました。

 幹部たちには、ちゃんと死ぬ間際に彼らの美学をまっとうさせてあげている。決して犬死にさせない。ノワールに対するリスペクトとは、こういうことです。

■裏切り者たちには無慈悲な死を

 一方で、幻獣を裏切り九頭竜に情報を流していた始末屋・櫛田(フェルナンデス直行)にはあっさりと死んでもらいます。裏切り者には一言もしゃべらせない。それもまた、ノワールの鉄の掟です。

 キイチたちを裏切り、九頭竜としてすべての糸を引いていた刑事・入間(及川光博)もまた、拘置所で職員たちを抱き込んだ鳳凰に殴り殺されることになります。こちらは死に際の顔すら映してもらえません。

 警察上層部から入間を影で操り、すべてを闇に葬ろうとした吉野(長尾純子)と狩野(神尾祐)もまた、暗闇の中でゴミのように殺されていきます。

 そうして、鳳凰は自らが捕まった後のことも想定して準備していたことが示され、すべてが終わったと思っていた兄妹に公安から再び潜入依頼が舞い込み、物語は終わりました。