◆日常を日常ならざるものに変質させるエスパー
巨匠監督に才能を見出された前田は、その後も黒沢作品に出演を続けるが、他に類を見ない強烈な奇妙さ漂う黒沢監督の作品で、あれだけの存在感を発揮できること自体、すでに才能である。
『育休刑事』でも、その才能が見事に発揮されている。愛息を抱きかかえた春風が涼子と待ち合わせる場面は、いたって日常の風景だが、この姉役を前田が演じると一筋縄ではいかなくなる。
「もっと身近に特殊な習性を持った人がいる」と春風が説明する涼子は、嗅覚が鋭い。春風の朝ごはんを産地まで細かく当ててしまう姉を「そこまでいくと能力者だから」だとまで言う。日常を日常ならざるものに変質させる才能。なるほど、前田敦子は、まさにエスパーを持った俳優なのだ。