そりゃ震災を描くわけですから、傷ついた人がどうやって「心の復興」を果たしていくか、失われた時間を回復していくかが描かれることになると思っていたんですが、さすがにナベさん(緒形直人)が一晩でデコ靴を完成させてくるくだりには天を仰いでしまいましたよ。笑って変な声出ちゃった。
震災で最愛のひとり娘を亡くし、12年間にわたって心を閉ざしてきたナベさん。その描き方は極端だったしエピソードも取っ散らかっていたけど、とにかく容易に癒されるものではないという部分だけは強調されていたように感じたんですよね。
いやぁ、めちゃくちゃ容易に癒されました。NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第11週は「就職って何なん?」とのこと。いつまでもナベのウジウジに付き合ってられないということでしょうか、今週は月曜からガンガン飛ばします。振り返りましょう。
■被災者を暮らさせろ
まず言いたいのは、じゃあ震災のあった12年後に傷ついた被災者の回復を描こうとするなら、その傷ついた人が12年間、どんな暮らしをしてきたかを見せなければ、それがどう回復していくかを語っても意味がないということです。
このドラマがいわゆる“被災者の象徴”として登場させたナベさんという人物は、あの日から心を閉ざして、ずっと墓参りをしている。家では酒を飲んで、亡くなったマキちゃんの遺影を眺めている。
それは、ナベさんの「暮らし」ではありません。
その酒を買うためには仕事をしなければいけないし、毎日あの高台にあるお墓に手を合わせに行くには、健康な体が必要です。傷ついた人が、その傷を抱えながら生きるということは、その傷を抱えながら仕事をして金を稼ぐことなんです。気を病んで仕事ができないなら自分で病院に行って診断書を取って、役所に行って生活保護の申請をしなきゃいけない。平成19年に日本・神戸で自活している大人を描くとき、その経済活動を切り離した状態を「暮らし」とは呼べないのです。