ここから、向井理ショーの始まりです。

 まずはバックグラウンドとして、橘祥吾は身寄りがなく、たちばな建設に養子として入ったことが語られます。病弱な御曹司に代わって経営者になるはずでしたが、御曹司が回復したことで居場所をなくし、一族企業の息子なのにヒラ社員です。家族と呼べるのは、愛生とライオンだけでした。

 そんな橘祥吾が「離婚をする」と言って愛生を呼び戻したわけです。DVについて反省しているし、死んだふりまでして自分から逃げようとした愛生を解放してやろうというわけです。

 最後の日々を家族3人で、せめて楽しく過ごそうとする橘。その脳裏には、本当に楽しかった頃が蘇ります。DVの記憶もあるし、よそよそしかったライオンも、ほんの少しの優しさを見せてくれたりします。

 深い悲しみを見るわけです。本当は離婚したくないけれど、愛生とライオンのためを思って身を引くしかない。それは自分が招いたことだし、ひとりぼっちになっても仕方ない。そういう悲哀を、向井理が切々と演じ上げます。

 そうして離婚届を出す当日、やはりあきらめきれなかった橘は、愛生にライオンの親権を要求します。当然、愛生がそれを受け入れることはありませんが、橘は土下座をします。最後のあがきです。ここまでやって許してもらえないなら、仕方ない。そういう潔さを感じさせる土下座です。

 と、思ったら、「愁人(ライオン)の親権をよこせ、それが離婚の条件だ」などと言い出し、次のシーンでは顔面をボコにされた愛生が物置に監禁されていました。

 怖。

 異変を察知した「X」とヒロトが橘の不在を狙って合鍵を使い、愛生とライオンの救出を試みますが、いないはずの橘がゆら~っと現れ、真っ黒なビー玉みたいな目ん玉でヒロトを追い返すのでした。

■やっと仕事した

 ようやく、向井理がお芝居をするターンが来た、という印象でした。これまで、複雑なサスペンスパートの中で不穏な空気だけを放ってきた橘でしたが、今回の「あれ? 情状酌量の余地ありかな?」と思わせておいての闇堕ちはすごかったですね。ドラマそのものの質量がドーンと上がりました。