黒澤明さんの映画は映像のダイナミックさや、繊細な人の心理を映し出し世界中から絶賛される芸術作品のひとつで、多くの作品がDVD化されています。そこで今回は、「世界のクロサワ」と称賛される黒澤映画の人気ランキングを紹介します。
「天才映画監督」黒澤明のプロフィール
名前:黒澤明
生年月日:1910年3月23日
没年月日:1998年9月6日
出身地:東京府荏原郡大井町(=東京都品川区)
黒澤明さんは、日本が世界に誇る映画監督であり脚本家です。代表作は「羅生門」「生きる」「七人の侍」など、映像のダイナミックさと繊細な心理を表現する作風が特徴です。また、絶妙な間の取り方、手に汗握る展開、コミカルなシーンなど観る人を飽きさせない魅力があります。
黒澤作品は日本にとどまることなく、アカデミー賞以外にも世界三大映画祭と呼ばれるヴェネツィア・カンヌ・ベルリン映画祭で賞を受賞しました。映画史では「世界のクロサワ」と呼ばれ、スティーヴン・スピルバーグやジョージ・ルーカスといった有名監督に大きな影響を与えました。
1990年には日本人初のアカデミー名誉賞を受賞、1998年に永眠後も数々の賞を受賞して米週刊誌「タイムズ」の「今世紀最も影響力のあったアジア20人」に選出されています。
今回は、世界から愛された黒澤監督作品を人気ランキングで紹介します。
黒澤映画の全作品人気ランキングTOP30!
黒澤明さんの映画は、年齢を超えて幅広い世代に愛されています。一時期のブームとは異なり、心を揺さぶるような感動を与え続ける作品ばかり…!世界中のファンが愛する人気作品をランキングで紹介します。
黒澤映画の人気作品ランキング第30位:まあだだよ
1993年公開、主な出演者は松村達雄さん。大映が製作して東宝の配給での公開でした。この作品公開後、次に脚本作成中に骨折・闘病。1998年に脳卒中で亡くなった黒澤明さんの遺作でもあります。
内田百閒さんの随筆を原案にして、戦前から戦後の彼の日常と教師時代の教え子たちとの交流を描いています。「今、忘れられているとても大切なものがここにある…。」をテーマにして終始穏やかに、戦闘やアクションは描かれませんでした。
黒澤映画の人気作品ランキング第29位:虎の尾を踏む男達
1952年公開、主な出演者は大河内傳次郎さんです。製作・配給共に東宝でした。能の演目「安宅」から生まれた歌舞伎の演目「勧進帳」を題材にした作品です。義経と弁慶一行が安宅の関所をこえるシーンを描いたモノクロ映画です。
黒澤明さんの初めての時代劇作品で、1945年の終戦前後に製作され、検閲により公開は7年後になりました。能の地謡部分を洋楽風のコーラスにアレンジ、伝統だけにとらわれない面白味のある作品に仕上がっています。
黒澤映画の人気作品ランキング第28位:八月の狂詩曲
1991年公開、主な出演者は村瀬幸子さんです。黒澤プロダクション・フィーチャーフィルムエンタープライス製作で松竹によって配給されました。
村田喜代子さんの小説「鍋の中」を原作にした、原爆を体験した長崎の祖母と4人の孫のひと夏の物語。「なんだかおかしな夏でした…。」をキャッチコピーにカラーで描かれた作品です。この映画は第65回キネマ旬報ベスト・テン第3位を獲得しています。
黒澤映画の人気作品ランキング第27位:デルス・ウザーラ
1975年公開、主な出演者はユーリー・ソローミンです。ソ連と日本の合作映画です。1923年に出版されたロシア人探検家ウラディミール・アルセーニエフによる、1902年から10年間に及ぶシベリア沿岸地方での冒険を基にした作品です。
当時のロシアで地図上の空白地帯であったシホテ・アリン地方の地図製作のため、探検隊を率いてやってきたアルセーニエフ。彼とガイド役の先住民ゴリド族の猟師デルズ・ウザーラとの交流がシベリアのダイナミックな自然の中で描かれています。
この作品はモスクワ国際映画祭大賞、ソ連と日本の合作でありながらアメリカでも広まり、1975年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞しています。
黒澤映画の人気作品ランキング第26位:一番美しく
1944年公開、主な出演者は黒澤明さんの後の妻・矢口陽子さんです。東宝が製作して映画配給社によって配給されました。
第二次世界大戦中に軍事工場などで勤労労働に従事した、未婚女性によって構成される女子挺身隊員の奮闘を描いたモノクロの作品です。21名の女優が実際に日本光学工場で行員同様の生活を行ったドキュメンタリータッチの映画です。
黒澤映画の人気作品ランキング第25位:續姿三四郎
1945年公開、主な出演者は藤田進さんです。東宝が製作して映画配給社によって配給されました。黒澤明さんのデビュー作である「姿三四郎」の続編作品です。
檜垣兄弟が兄の復讐のために戦いを挑んだ、姿三四郎との死闘をモノクロで描いた作品です。姿三四郎のヒットを受けての作品ですが、黒澤明さん自身は「あまり上出来ではない映画」と語っています。
黒澤映画の人気作品ランキング第24位:姿三四郎
1943年公開、主な出演者は大河内傳次郎さん、藤田進さんです。東宝映画が製作して映画配給社が配給しました。黒澤明さんの監督デビュー作となったモノクロ映画です。
富田常雄さんの小説「姿三四郎」を原作に、矢野正五郎と三四郎の出会いや柔術を極めて人間として成長していく姿を描いた戦時下には数少なかった娯楽映画です。
再上映のときフィルムが一部カットされて、三四郎が特訓を受けるシーンなどが脱落。戦後の混乱でカットされたフィルムが紛失したため、1965年に宝塚映画と黒澤プロダクション製作、東宝配給で再映画化されています。
再映画化された作品は、黒澤脚本に最も近いバージョンとして且つ三船敏郎さんとクレジットが並ぶ最後の作品として愛されました。その後、1990年代にロシアで切り取られたフィルムが発見され、2002年には全長91分のオリジナル最長版DVDが発売されています。
黒澤映画の人気作品ランキング第23位:素晴らしき日曜日
1947年公開、主な出演者は沼崎勲さん、中北千枝子さんです。製作・配給は東宝のモノクロ映画です。敗戦直後の東京で、貧困と闘う恋人の姿を描いています。
D・W・グリフィス監督の無声映画「素晴らしい哉人生」を参考に脚本されました。日曜日にデートをするも、所持金も少なく何をやっても災難に見舞われてしまいます。心の行き違いを乗り越え、再び街に出て二人の夢を語り合います。
ヒロインが観客に向かってスクリーンの中から拍手を求める、今までにはない実験的な演出が行われて話題を呼びました。この映画は第21回キネマ旬報ベスト・テン第6位を獲得しました。
黒澤映画の人気作品ランキング第22位:白痴
1951年公開、主な出演者は森雅之さん、三船敏郎さん、原節子さんです。映画芸術協会が製作して松竹が配給しました。当初、4時間以上の作品であったものを、松竹の意向で166分まで短縮しました。
ロシアのドストエフスキーの小説「白痴」を原作として、舞台を昭和20年代の札幌に置き換えて脚本されました。「羅生門」の次に作られた映画で、芸術性が高く興行収入自体は低迷した作品です。
戦犯処刑を命じられたが人違いと判明し解放された主人公は、この出来事をきっかけにてんかん性の白痴を発症。札幌に戻ってから二人の対照的な女性の間で激しく揺れ動きます。3人の関係が周囲を巻き込んで物語が進みます。
黒澤映画の人気作品ランキング第21位:夢
1990年公開、主な出演者は寺尾聰さん、倍賞美津子さんです。日本とアメリカの合作映画で黒澤プロダクションが製作して、ワーナー・ブラザーズが配給しました。
黒澤明さん自身の夢をモチーフにした、8話のオムニバス形式の映画です。こんな夢を見たというフレーズから物語が始まるのは、夏目漱石さんの「夢十夜」に影響を受けたとも噂されています。
国内で上映可能なフィルムは東京国立近代美術館のフィルムセンターに保管されているため、日本でのフィルム上映はめったに行われない名作です。
黒澤映画の人気作品ランキング第20位:静かなる決闘
1949年公開、主な出演者は三船敏郎さんです。製作・配給は大映のモノクロ映画です。東宝を脱退した黒澤明さんが製作した初めての他社作品です。
菊田一夫さんの戯曲「堕胎医」を原作にしています。青年医師が戦時中の野戦病院で誤って梅毒に感染して、医師を続けること、婚約者との今後について苦悩します。この映画は第23回キネマ旬報ベスト・テン第8位を獲得しました。
黒澤映画の人気作品ランキング第19位:わが青春に悔いなし
1949年公開、主な出演者は原節子さん、大河内傳次郎さんです。製作・配給は東宝のモノクロ映画です。
思想弾圧事件の「滝川事件」と、ソ連のスパイ事件の「ゾルゲ事件」をモデルに脚本されました。ファシズム時代に自らの信念を曲げずに生きる女性を描き、GHQからの奨励を受けた民主主義映画でもあります。この映画は第20回キネマ旬報ベスト・テン第2位を獲得しています。
黒澤映画の人気作品ランキング第18位:生きものの記録
1955年公開、主な出演者は三船敏郎さん、志村喬さんです。製作・配給は東宝のモノクロ映画です。
核軍備競争に伴うビキニ環礁での第5福竜丸被ばく事件を受け、反核世論が過熱したことから原水爆の恐怖を映像化した社会派ドラマです。当時まだ35歳の三船敏郎さんが、70歳の老人を違和感なく演じて注目されました。この映画は第29回キネマ旬報ベスト・テン第4位を獲得しています。
黒澤映画の人気作品ランキング第17位:影武者
1980年公開、主な出演者は仲代達矢さんです。東宝と黒澤プロダクションで製作して、東宝が配給したカラー映画です。
黒澤明さんが「デルス・ウザーラ」から5年ぶりに監督を務めた作品です。久々の時代劇であり、黒澤明さんが手がけた映画の中で唯一実在する戦国武将のエピソードを取り上げています。
戦国時代、武田信玄の影武者として生きることになった小泥棒の可笑しく悲しい物語。海外版プロデューサーには敬愛するフランシスコ・フォード・コッポラ、ジョージ・ルーカスが選ばれました。
日本映画の歴代映画興行成績1位、世界でも評判で第33回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞しました。
黒澤映画の人気作品ランキング第16位:野良犬
1949年公開、主な出演者は三船敏郎さん、志村喬さんです。東宝と映画芸術協会が製作して、東宝が配給したモノクロ映画です。
黒澤明さんが初めて手掛けた犯罪サスペンス映画。終戦直後の東京で、拳銃を盗まれてしまった新人刑事がベテラン刑事と犯人を追い詰めるストーリー。この映画は第23回キネマ旬報ベスト・テン第3位を獲得、昭和24年度の芸術祭賞を受賞しています。
黒澤映画の人気作品ランキング第15位:酔いどれ天使
1948年公開、主な出演者は三船敏郎さん、志村喬さんです。製作・配給共に東宝のモノクロ映画です。黒澤×三船コンビ最初の映画でもあります。
闇市を支配するまだ若いやくざと、貧乏だが一途なアルコール依存の中年医師との交流を軸に物語が描かれています。戦後の風俗を鮮やかに描写、ヒューマニズムを感じることができる作品です。この映画は第22回キネマ旬報ベスト・テン第1位を獲得しました。
黒澤映画の人気作品ランキング第14位:醜聞(スキャンダル)
1950年公開、主な出演者は三船敏郎さんです。製作・配給は松竹のモノクロ映画です。東宝争議のため他社で撮った、黒澤明さん初めての松竹作品です。
無責任なマスコミによる言論暴力に不快感を持った黒澤明さんが、過剰なジャーナリズムを問題視した作品です。雑誌社のカメラマンに隠し撮りをされ、嘘のスキャンダルを広められた青年が編集者と法廷で戦います。この映画は第24回キネマ旬報ベスト・テン第6位を獲得しました。
黒澤映画の人気作品ランキング第13位:乱
1985年公開、主な出演者は仲代達矢さんです。ヘラルド・エースとグリニッチ・フィルム・プロダクションが製作、東宝が配給した日本とフランス合作のカラー映画です。黒澤明さんが監督を務めた最後の時代劇、ライフワークであり「人類への遺言」とも語っています。
架空の戦国武将・一文字秀虎をメインに、3人の息子との晩年の確執や息子たちの間の争いを描いています。悲劇「リア王」や逸話「三本の矢」を組み込んだ人間模様は衝撃的な結末を招きます。
この映画は国内外で様々な賞を受賞して、4Kによるデジタル修正が行われ2017年に再公開されました。
黒澤映画の人気作品ランキング第12位:どん底
1957年公開、主な出演者は三船敏郎さん、山田五十鈴さんです。製作・配給は東宝のモノクロ映画です。
マクシム・ゴーリキーの戯曲「どん底」の舞台を日本の江戸時代に置き換え、陽の当たらない傾きかけた長屋に暮らす人生どん底の人々の人間模様を描いています。外見はみじめでも、自堕落で楽観的な人々が、ある人物の登場をきっかけに雰囲気を変えていきます。
この映画は第31回キネマ旬報ベスト・テン第10位を獲得、昭和32年度芸術祭参加作品です。
黒澤映画の人気作品ランキング第11位:悪い奴ほどよく眠る
1960年公開、主な出演者は三船敏郎さん、森雅之さんです。黒澤プロダクションが製作して、東宝が配給しました。黒澤明さんが東宝から独立して初めての映画作品です。
父親亡くした男が、父を殺した現代社会の機構に潜む悪に立ち向かうストーリー。興行収入をあえて狙わず、公団とゼネコンとの汚職を題材にした難しい作品に挑戦しています。タイトルは「本当に悪い奴は目の届かぬところで枕を高くしてのうのうと寝ている」ことを表しています。