チョン氏は2017年に出版した『全斗煥回顧録』の中で、相変わらず「光州事件はアカ(共産主義者)によって煽られて起きた反乱」「ヘリからの銃撃は真っ赤なウソ」といった記述を繰り返し、事件の犠牲者に対する名誉毀損だとして市民団体から提訴されたのだ。

 裁判でも予想通り、容疑を否定し主張を貫くその姿には、自らが指揮した虐殺への反省も、犠牲者や遺族への謝罪も毛頭見られなかった。そこには、不当な裁判だと逆ギレしている元権力者の醜悪な本性しかなかった。

 ではその「光州事件」とは一体なんだったのか? なぜ40年という月日がたった今でも、韓国国民にとって「まだ終わっていない」事件として関心を集め続けているのか? このコラムでは5月に配信する2回(韓国映画『1987』、大学生の「死」が生んだ市民100万人の“権力”への怒り)にわたって光州事件を取り上げる。

 1回目は、ドイツ人記者と彼を乗せたタクシー運転手の目線から事件を描いた『タクシー運転手~約束は海を越えて』(チャン・フン監督、2017)を通して、歴史的な視点から事件の概要を振り返りたい。

映画『タクシー運転手~約束は海を越えて』大ヒットを記録

 韓国では17年5月、朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾・罷免に伴い、文在寅(ムン・ジェイン)が大統領に就任し、10年ぶりに進歩派政権が誕生した。

 進歩派政権はこれまでも光州事件の真相究明に力を入れてきたこともあり、前政権下では公開が厳しかったであろう、光州事件を題材にした映画が文政権下に公開されたこと自体は不思議ではない。

 驚くべきは、本作が観客動員1,200万人以上という大ヒットを記録したことだった。光州事件を扱った映画は、数は少ないもののこれまでにもあったが、完成度は別としてどうしても重苦しさが先に立ってしまい、ヒットはしにくいと考えられていたからだ。

 では本作の大ヒットの要因はなんだったのだろうか? 私見では、本作が「外側からの目線」で光州事件を描いたからではないかと思う。まずは物語から紹介しよう。

『タクシー運転手~約束は海を越えて』あらすじ