■「熱情的に」だからこそ壊れた父娘関係

 娘の響がなぜ父を拒絶しているのか。それは第1話では描かれませんでした。5年前に何やら事件があったらしい。それをきっかけに家族は父を残してウィーンから日本に戻り、オーストリアに残った父はコンダクターを辞めて音大の職員として働いている。

 音楽が人を救うというドラマにおける大テーマとは逆に、父親が熱情的に音楽に取り組んでいたばっかりに家族が離れ離れになってしまったという事情が示唆されます。もっとこの父親が音楽を蔑ろにして、家族に目を向けていたら避けられたかもしれない何かがあって、それをやらなかったから何かが起こった。それによって娘の心は父から離れてしまった。おそらく娘は父を憎んでいるし、音楽も憎んでいる。

 だから父は、家族関係を再生するためにもう一度、自分と音楽との関係を見直さなければいけない。そういうことが、第2話以降で行われていくことになるのでしょう。そういうのでいいんです。

 多様性の時代なんて言いますけど、確かにYouTubeじゃ誰でも簡単に高画質の映像を撮影できるし、お手軽に公開できるようになった。Netflixでは莫大な予算をかけた挑戦的な大作が次々にドロップされている。視聴者にとって、もう世の中にある娯楽を全部楽しもうなんてことは物理的に不可能になってる。

 そういう時代において、この『さよならマエストロ』みたいな超ベタ、つまりは王道中の王道をテレビドラマという古参媒体が丁寧にやり切ることは、確かにカウンターとして機能することになると思うんです。

 テレビドラマ、まだ面白いじゃん。そう思わせようと思って作ってるかどうか知りませんが、テレビドラマ、まだ面白いじゃんと思いました。来週も楽しみです。

(文=新越谷ノリヲ)