若い観客に向けられた恋愛ものやエンタメ性の強いアクションものから徐々に脱却し、芸術性の高い作品にシフトしていくというのもよくあるパターンで、後に『ルート29』が綾瀬にとってターニングポイントとなった作品と呼ばれる日が来るかもしれない。

 本作で新境地を見せている綾瀬だが、今後どうなっていくのだろうか。芸能ジャーナリストの竹下光氏はこう分析する。

「綾瀬さんというと近年はCMでの露出こそ相変わらず多いものの、ドラマ出演はセーブ気味でそのぶん映画に力を入れている印象です。もっとも、今や日本を代表する女優となった綾瀬さんだけに、そのもとには商業的成功を最優先する、いわゆる万人受けしそうな娯楽大作の出演オファーが多いでしょうし、今作はこれまでの主演映画で演じた役柄などに比べると地味な印象を持たれがちです。他方、細やかな表情の変化やしぐさなどで心情を表現したり、劇中で朴訥とも言える主人公に違和感なくなり切っていたりと、改めて綾瀬さんの高い演技力が見てとれます。かつて清純派女優と言われた同世代の長澤まさみさんも映画『MOTHER マザー』(20年)で毒親役を好演して話題となったり、下の世代の有村架純さんも三十路に突入し、映画やドラマで激しい濡れ場を演じたりしていますからね。綾瀬さんも年齢やキャリアを重ねてこれまで演じたことのない役にチャレンジする機会が増えていきそうです」

 さらに、綾瀬のような日本を代表する俳優が、必ずしも娯楽大作ではない作品に出演することにも大きな意味があるという。

「映画に対する評価は“ヒットしたかどうか”で判断されがちですが、予算が少ないがゆえに有名俳優が出演しておらず、その結果埋もれてしまう良作も多い。綾瀬さんのような大物がさまざまな作品に出演することで、隠れた名作にスポットが当たりやすくなるという意味では、映画界にとっても歓迎すべきことだと思いますね」(前出の映画業界関係者)