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拭い去れない恐怖の体感

「男女平等」が広く叫ばれるようになり、少しずつさまざまな分野で改善への歩みは進んでいるように見える現代だが、法律や制度をいくら整備しても“同じ”にはなり得ない、男女間の物理的な違いは存在する。その最たるものの一つが、筋力・体格差だ。もちろん小柄で力の弱い男性もいれば、大柄でパワフルな女性は存在するが、全体的に見れば“女性は筋力では男性に勝てない”というのは誰もが認めるところだろう。

しかし、残念ながら“勝てる勝負”を恥じらいもなく挑んで実力を行使する男性は一定数存在し、DV(家庭内暴力)被害者の声は絶えずどこかで上がっている。声が上がればまだ不幸中の幸い。中には声を上げることもできずにDVを受けるがままの状態にある女性もいることだろう。どれだけ慣れようが、諦めようが、痛み・恐怖は消えない。“勝てない相手に怯え、暴力を振るわれ続ける”ということを男性目線に置き換えて想像すれば、大きな猛獣に攻撃され続けるようなものかもしれない。

勝てない相手への恐怖は、時に身をこわばらせる。外からいくら「抵抗すればいい」「逃げればいい」と言おうが、当事者にとってそれは簡単なことではない。今作で生育環境にトラウマを植え付けられている主人公リリーがふとした瞬間に感じてしまう恐怖、男性が怒り、苛立つ様子を見て怯えてしまう感覚を映し出す描写は、そういった“本質的な恐怖”を観客に体感させるには十分な表現となっていた。

(画像提供:ソニー ピクチャーズ)

(画像提供:ソニー ピクチャーズ)

等身大の“ひとりの女性”

そんなリアルな恐怖、そしてそれ以外にも喜怒哀楽の感情を、印象的な演技で見せたのがブレイク・ライブリーだ。娘として、恋人・妻として、そして母として…ひとりの女性の生き方、人生を1本の作品として煮詰めて絞り出したような今作で、ライブリーはその等身大の“ひとりの女性”のあらゆる感覚と、強さ・弱さを体現してみせた。生き生きとした表情から、苦悩と葛藤に苛まれた曇った表情まで、さまざまなリリーの姿が印象に残った。

そしてその“ひとりの女性”の感情を今作に美しく乗せるのが、主題歌に選ばれたテイラー・スウィフトの楽曲「My Tears Ricochet」。愛し愛された人間に踏みにじられた女性の悲しみと怒りとやるせなさが込もったこの1曲は、まさに今作のテーマにマッチしていた。

(画像提供:ソニー ピクチャーズ)

(画像提供:ソニー ピクチャーズ)

ここで多くは語らないが、今作のタイトル『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』も覚えておくとかなり心に訴えるものがあるため、しっかりタイトルを把握して鑑賞することをオススメしたい。

“事実”の描き方にみるリアリティ

DVや性犯罪をめぐる論争に付き物なのが、「証拠は?」「被害妄想では?」「後からは何とでも言える」といった言葉たちだ。実際に一部“ハニートラップ”といえる事例が存在したり、“冤罪”で人生が狂う人間も存在することから、「証拠」を大切にするのは当然。そうでなければ“訴えたもん勝ち”で誰でも陥れられてしまう。とはいえ、フラットに考えるだけならまだしも、被害者である可能性も大いにある人物に対して、憶測で攻撃めいた視線・言葉を投げかけるのも、あまりに非道で残酷ではないだろうか。