筆者のような東映任侠映画ファンからすると、1990年代の中井貴一にはヤクザ映画俳優として身を立てたイメージが強い。
『明治侠客伝 三代目襲名』(1965年)や『博奕打ち 総長賭博』(1968年)など、数々の任侠映画を手掛けた名プロデューサー俊藤浩滋に実力を買われた中井は、『激動の1750日』(1990年)から『残俠』(1999年)まで同ジャンルを再興した人でもある。美しい話し方とのメリハリが中井独自に作られる静のドスが効いた声色は、東映ヤクザ映画の撮影現場仕込みなのだ。
◆年少相手と名コンビを組めるのは誰か?
ところで、最近『帰らないおじさん』(BS-TBS、2022年)を見ていて思ったことがある。光石研、高橋克実、橋本じゅんという魅力的なおじさん俳優が揃っているというのに全然面白くない。『ザ・トラベルナース』の中井貴一にしろ、確かにベテラン俳優がいつでも縁の下の力持ちとなって作品を支えるから、強度がある土台にはなるかもしれない。
でもだからって作品が相対的に面白くなるとは限らないということを『帰らないおじさん』は端的に示している。魅力的なおじさん俳優はひとりのほうがむしろいい。おじさんが束になるより、そのほうがずっと潔い。松重豊がただ食べ物を食べるだけなのになぜか面白い『孤独のグルメ』(テレビ東京、2012年)なんておじさんソロの好例である。
ただし、もうひとり魅力的な年少俳優が相棒になるなら話は別である。今、日本で一番魅力的なおじさん俳優で、年少相手と名コンビを組めるのは誰か。『ザ・トラベルナース』の中井貴一しかそりゃいないだろうよ。みたいな論理が成立する。
◆トリオで共同生活をする理由
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ただし、名コンビにプラスαの存在がいることもちゃんと勘定に入れておく必要がある。前作で歩と静は病院寮の同室、しかも相部屋で寝食をともにした。続く『ザ・トラベルナース』では、その基本設定が最初リセットされる。その代わりに脈屋の上階に新たな寮スペースが設けられる。