象徴的なシーンがありました。指輪を叩いて成型する練習をしていたまこちゃんに対し、師匠の杏璃さんが顔を向けることもなく「雑になってる、今日は休みなさい」と指示します。見てないくせに、なんで「雑になってる」とか言うの。そういう理不尽な対応を飲み込めるかどうか試されてるの。そう訝しがるまこちゃんに、元カレの花屋さん・公太郎(瀬戸康史)はこう言うのです。

「師匠が弟子を見るんじゃなくて、弟子が師匠を見るんじゃないの。プロの世界なら」

 どこかで、記憶を失ってもちゃんと自分の考えで就職先を決めた私、明るい私、練習もがんばってる私、そんな私は立派に新しい一歩を踏み出しているという実感が、「だからちゃんと見て」という傲慢さを生んでいた。

 それを気づかせてくれる人は、昔の自分をもっともよく知る元カレだった。ついでに、「仕事中もちゃんと飯食え」とか「ハンドクリーム塗れ」とか、職人としての働き方も教えてくれた。

「傷も歴史」とは、そういうことです。師匠に冷たくあしらわれたこと、手が荒れていること、そういう傷が、ひとつひとつ記憶を失ったまこちゃんの歴史になっていく。そうして、自分だけの価値観を再発見していく。

 まこちゃんの心の動きは、めるるの的確な芝居によって生き生きと表現されています。